猫の献血(blood donation)
人と同様、猫も大きな病気やケガの治療をするときに輸血が必要なことがあり、それによって命が救われることも少なくありません。
しかし日本の獣医療において人のような血液バンクが存在せず、輸血によるシステムが整っていないのが現状です。
日本の獣医療の現状をふまえながら、献血の重要性についてご紹介します。
猫の献血の現状
日本ではペット用の血液バンクがない
人の医療においては、日本赤十字社が中心となって献血に協力していただいた方の血液を製剤として、患者さんのために医療機関に供給する血液事業が確立しています。獣医療においては、ペット医療の先進国であるアメリカでは1989年にペット用の血液バンクが設立されました。
しかし日本においては血液の採血から供給までを行う団体や制度がなく、緊急の輸血に対応できない状況です。また輸血用血液を他の動物病院から得ることも法律的に非常に難しいといわれています。
そのため、輸血が必要なときはドナー登録している猫、動物病院スタッフの猫、知り合いの猫などの協力に頼ることが多い状況です。
手術の機会が多い大規模な動物病院や機関、大学では、輸血用の血液を提供してくれる猫を飼育していることもあります。このように献血に協力してくれる猫を供血猫といいます。
猫の血液型は保存が難しい
犬の場合は、献血でいただいた血液を製剤して保存することができるため、緊急時や夜間などでも必要なときに保存している血液を使用してすぐに輸血を行うことができます。
しかし猫の血液は長期保存が難しいため、緊急時や夜間では早急に輸血が行えないことがあります。そのため、輸血が必要なときにはその都度ドナー登録している猫に連絡をしなければなりません。
日本小動物血液療法研究会による血液指針
現在の日本ではペット用血液バンクはないものの、2013年により多くの獣医療機関や施設における円滑な献血や輸血の実施の普及を目的とした日本小動物血液療法研究会が作られました。日本小動物血液療法研究会の指針をもとに、ドナー動物の登録においての条件など輸血体制を構築しています。
しかし獣医療機関や施設によって事情が大きく異なるため輸血の体制や検査、副反応などが安全に実施できず、体制を統一に整える必要があるとされています。
参考:日本小動物血液療法研究会|日本における犬と猫の献血指針の提案
命をつなぐ献血の重要性
これまでご紹介した通り、輸血が必要なときはドナー登録している猫、動物病院スタッフの猫、知り合いの猫などの協力が必要不可欠となります。
しかし当然ながらこれらの猫も生きている健康な猫であり、無限に採血することができるというわけではありません。
輸血は難易度やリスクが高い手術において重要性が高いため必要不可欠なものとされており、献血システムや献血ドナーを導入・実施している動物病院も徐々に増えてきています。
それでもドナー動物の数が足りず、早急に十分な輸血を行うことが難しいこともあります。とくにB型とAB型は非常に少ないので、入手が困難という現状もあります。
こうした獣医療の現状の中、献血ボランティアが求められています。
献血の条件、流れ、特典
献血に必要な条件
どんな猫でも献血やドナー登録が可能というわけではなく、いくつかの条件をクリアする必要があります。
日本小動物血液療法研究会によると、献血やドナー登録をするには下記のことが望まれます。動物病院によって異なるので、献血やドナー登録を検討するときはまずは行きつけの動物病院に問い合わせをしてみましょう。
- 年齢:満1~8歳の健康な成猫
- 体重:3.5kg以上
- 予防接種を毎年受けていること
- 現在、妊娠していないこと
- 完全室内飼育であること
- 過去に、成分輸血を含めた輸血治療を受けたことがないこと
この他にも問診を行い、感染症の考慮や、慢性疾患の有無、治療薬の投与の有無なども確認が必要となります。
献血の流れ
献血の流れ | |
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①予約、日程調整 | |
②来院 | |
③健康診断 | 身体検査、血液検査(フィラリア抗原検査、猫ウイルス検査)、尿検査、便検査 ※異常があった場合は中止することもある |
④採血 | ・採血部を毛刈りして消毒を行う ・採血量は、猫の場合は35~60ml(体重によって変動) ※安全のため鎮静をかける場合がある |
⑤採血後 | 皮下点滴を行う |
⑥安静、食事 | 採血後、病院で2~3時間安静にして体調に変化がないか観察 |
⑦帰宅 |
動物病院によって異なりますが、検査には2~3時間、献血の回数は年に2回程度、検査費用は病院負担のところが多いようです。
まとめ
- 日本ではペット用の血液バンクがなく、緊急の輸血に対応できないことがある
- 輸血の際はドナー登録の猫、供血猫、知り合いの猫に協力に頼ることが多い
- 輸血の必要度は高いものの、まだまだドナー登録の数が少ない