猫の輸血(transfusion)とは
輸血とは、大きな病気やケガによる大量出血、重度の貧血などで命が危機的状況であるときに、他の健康な猫からいただいた血液を投与することです。猫の命をつなげる重要な治療法です。
輸血はリスクやドナーの確保など課題が多いのも事実ですが、輸血の知識や情報を持ち、愛猫の血液型を知っておくことはもしものときの備えになります。
猫の血液型の割合
猫の血液型はA型、B型、AB型の3種類で、O型はありません。母猫と父猫からの遺伝子の組み合わせで血液型が決まります。
日本に住む猫のほとんどはA型であり、B型は5%程度、AB型は1%未満で非常にまれです。猫は地域や品種によっても偏りがあるといわれています。
猫の血液型は人と同じ表記ですが、人と猫とで輸血や献血はできません。
獣医療における輸血の現状
獣医療では輸血用血液を得ることが難しい
人の医療においては、日本赤十字社が中心となって血液事業(献血していただいた方の血液を血液製剤として、患者さんのために医療機関に供給する事業)が確立しています。
しかし獣医療においては、血液の採血から供給までを行う団体はなく、輸血用血液を他の動物病院から得ることも法律的に非常に難しいといわれています。
献血システムや献血ドナーを実施・導入している動物病院もありますが、まだまだ満足に輸血を行うことができないのが現状です。
猫の輸血は早急に行えない
犬は献血でいただいた血液を製剤して保存することができ、緊急時や夜間でも早急に輸血を行うことができます。
しかし、猫の血液は保存が難しく、輸血が必要なときには院内で飼育している猫(供血猫)や動物病院のスタッフの猫、知り合いの猫などに頼ることが多い状況です。そのため、緊急時や夜間では早急に輸血が行えないことがあります。
とくにB型の猫は非常に少ないので、輸血の確保が大変となります。
日本小動物血液療法研究会が誕生
こうした獣医療の輸血における現状について、より多くの小動物医療施設における献血や輸血の円滑な実施の普及を目的とした日本小動物血液療法研究会が誕生しました。
日本小動物血液療法研究会の今後の検討課題として、献血法のプロトコル、輸血療法のプロトコル、輸血適応動物の選定、献血システムの構築法、院外献血ドナーの募集法などを挙げています。
輸血が必要となる状況
猫において、輸血が必要となるのは主に下記の4つです。
- 大量出血:病気やケガ、交通事故などによる臓器の破裂が起こったとき
- 重度な貧血:免疫介在性溶血性貧血やバベシア症などの重度の貧血が起こったとき
- 凝固障害や血小板減少:免疫介在性血小板減少症や血友病などが起こったとき
- 重大な手術に備える:重大な手術が決定している場合にあらかじめ血液を確保するとき
輸血は命の危機的状況を救う重要な治療法ですが、「輸血をすれば完治する」というわけではありません。輸血は根本的治療ではなく、病気やケガの原因を治療するための対症療法となります。
輸血のリスク
人と同様に、輸血をする前には血液型を事前に知る必要があります。もし異なる血液型を輸血してしまうと免疫学的副反応が起きる恐れがあります。免疫学的副反応とは、異なる血液型同士が赤血球を攻撃し合い、赤血球が機能不全となって発熱や嘔吐などあらゆる症状が起こる反応のことです。
とくにB型猫にA型の輸血をした場合は、命に関わる非常に強い副反応が起こることがあります。これはB型の猫が持つ抗A型抗体が非常に強いためです。
このように、自己血でない限り副反応や感染症のリスクが生じます。
猫の血液型を知っておくメリット
- 輸血を少しでも早く行うことができる
- 他の猫への輸血用血液を供給できる
- 副反応のリスクを避けることができる
- 不適切な交配を避けることができる