猫の人獣共通感染症:エルシニア症(Yersiniosis)
エルシニア症は、エルシニア属に分類される細菌によって起こる人獣共通感染症の総称です。
主にエルシニア・エンテロコリティカ菌(Yersinia enterocolitica)と、エルシニア・シュードツベルクローシス菌(Yersinia pseudotuberculosis)の2種類の菌が原因となります。
エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis)もエルシニア属菌による感染症ですが、ペストとして独立して扱われるため、通常エルシニア症には含まれません。
エルシニア症の感染経路
エルシニア症の感染経路は、動物の体液や排泄物から直接感染する糞口感染と、動物性の生肉等を食べることで間接的に伝播される食品媒介の感染があります。
エルシニア菌の代表的な保菌動物は豚ですが、犬や猫も高い確率で腸内に保菌しています。
動物同士では、他の保菌動物の糞便に汚染された水や食事からの経口感染が多いです。動物から人への感染は、保菌した犬や猫との接触やトイレ掃除時に感染します。
保菌動物と接触していなくても、エルシニア菌に汚染された沢水・井戸水、食品(主に豚肉)などから経口感染します。
エルシニア症の症状
動物に感染しても無症状であることがほとんどですが、人に感染すると以下のような症状があらわれます。
- 胃腸炎(発熱、下痢、腹痛)
- 回腸末端炎
- 虫垂炎
- 関節炎
- 敗血症 など
エルシニア・エンテロコリティカ菌は、年齢によって症状が異なり、乳幼児では下痢が主な症状として表れます。年齢が上がると腸間膜リンパ節炎などの症状が出ることもありますが、症状は軽くなっていく傾向にあります。
エルシニア・シュードツベルクローシス菌は、胃腸炎の症状の他に、皮膚に発疹や結節性の紅斑、敗血症などの症状が報告されています。
潜伏期間は、エルシニア・エンテロコリティカ菌が0.5~6日、エルシニア・シュードツベルクローシス菌が2~20日とされています。
エルシニア症の治療方法
抗菌薬または療養
エルシニア症は抗菌薬などの投与をしなくても、療養すれば自然に治癒する場合が多いです。
抗菌薬の投与に関しては、その種類、投与方法、投与期間などはいずれも確立されていません。エルシニア症は、抗菌薬に対して高い感受性を示しますが、エルシニア・エンテロコリティカ菌はβ−ラクタマーゼ活性があるため、アンピシリンなどは効きにくいとされています。
アメリカでは重篤な症状や合併症がある場合は、アミノグリコシド系、ドキシサイクリン、フルオロキノロン系、ST合剤などの使用が有効だとしています。
エルシニア症の予防方法
犬や猫との接触後に手洗いをする
飼育している方の場合、同じ空間で生活する犬や猫と触れ合うたびに手を洗うことは難しいですが、菌を保有している可能性のある動物と接触した場合は、手洗いをするようにすることが予防法として示されています。
生肉の摂取に注意、豚肉はよく加熱する
生肉の摂取には十分注意し、特に豚肉は保菌率が高く、エルシニア菌感染の原因となるので、よく加熱して食べるようにしましょう。
まとめ
- エルシニア属菌による人獣共通感染症の総称
- 動物の体液や排泄物、生の動物性食品から感染
- 豚の保菌率が特に高いが犬や猫も腸内に保菌している
- 胃腸炎(下痢や腹痛)や虫垂炎、敗血症などを引き起こす