猫で多くみられる心筋症
猫で最も多くみられる心臓病は心筋症です。心筋症には、
- 拡張型心筋症(Dilated Cardiomyopathy:DCM)
- 拘束型心筋症(Restrictive Cardiomyopathy:RCM)
- 肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy:HCM)
がありますが、その中でもとくに発症が多いのが肥大型心筋症です。
今回は、多くの猫がかかりやすい肥大型心筋症の好発猫種や症状、原因、予防について解説します。
肥大型心筋症とは
肥大型心筋症とは、心筋が異常に厚くなる病気です。
異常な肥厚により心臓の働きを妨げ、心臓が効率的に血液を送り出せなくなることで全身の血流に悪影響を与えます。症状が進行すると呼吸困難や肺水腫、血栓症を引き起こし、急激に悪化してそのまま死に至ってしまうこともある恐ろしい病気です。
肥大型心筋症の原因
肥大型心筋症の原因は完全には解明されていませんが、
- 年齢
- 遺伝子の突然変異
- 肥満
などが原因として考えられています。
①若い猫も発症することがある
肥大型心筋症は、一般的に中年期から高齢期(4~7歳以上)の猫に多くみられます。年齢が進むにつれて心臓の機能が低下し、甲状腺機能亢進症や高血圧などが心臓に影響を及ぼすことがあります。これらの疾患が肥大型心筋症を併発する恐れがあります。
しかし、肥大型心筋症は若い猫にも発症することがあるため、年齢を問わず注意が必要と考えておいた方が良いでしょう。
②遺伝子の突然変異
肥大型心筋症は遺伝子の突然変異において発症することもあります。
遺伝子はDNAで構造されており、体内の全ての細胞の機能を指示する設計図のような役割を果たしています。遺伝子の突然変異とは、このDNAの塩基配列に変化が生じ、通常の機能が損なわれることを意味します。
とくにメインクーンやラグドールは、特定の特徴(毛並みや性格)を維持するため、近縁の猫同士を交配することが一般的です。このような繁殖方法を繰り返すと遺伝的多様性が低下し、突然変異が固定化されやすくなります。
これらの突然変異は遺伝性で、親から子へ受け継がれることもあります。発症リスクは他の猫より高い傾向があり、若年期(1~3歳)に診断されることもあります。
③肥満
肥満は肥大型心筋症の直接的な原因ではありませんが、肥満によって血液循環が妨げられ、心臓がきちんと機能しないと心筋が厚くなるリスクが高まります。また、肥満は高血圧や糖尿病などを引き起こして肥大型心筋症の進行を加速させる可能性もあります。
肥満の猫では呼吸困難や運動能力の低下といった症状が目立ちやすく、肥大型心筋症の症状と見分けがつきにくい場合もあります。
肥大型心筋症にかかりやすい猫種
肥大型心筋症は猫種や性別、年齢を問わず、全ての猫で発症する可能性がありますが、とくに下記の猫種は発症リスクが高いとされています。
これらの猫種は若年期に症状が現れることがあるため、年齢に関係なく定期的な検査が推奨されます。
肥大型心筋症の症状
肥大型心筋症の症状は、
- 呼吸困難(呼吸が浅い、荒い等)
- 口を開けている時間が長い
- 元気がなくなる
- 食欲低下
- 後ろ足に麻痺
が挙げられますが、初期症状が分かりにくく、発見されたときには症状が進行しているケースが多くみられます。小さな症状もほとんど見られないまま突然亡くなってしまう猫も残念ながらいます。
肥大型心筋症の治療
治療の目的は症状の進行を遅らせること
肥大型心筋症は完治させることが難しく、また肥大型心筋症の診断や治療はいまだ十分に確立されていないのが現状であるため、症状の進行を遅らせることが治療の目的となります。
心臓の筋肉のこれ以上の肥大を抑える薬などが用いられますが、早期発見が予後を大きく左右します。
参考:ベラプロストナトリウム投与により循環動態に改善がみられた猫肥大型心筋症の2症例
肥大型心筋症を早期発見するためには
肥大型心筋症の早期発見には定期的な動物病院での検査が重要です。
とくに肥大型心筋症の原因が特定の突然変異と分かっている猫種や、家族に肥大型心筋症にかかった猫がいる猫などは遺伝子検査を行うことが推奨されます。
突然変異そのものを防ぐことはできませんが、遺伝子検査を利用した繁殖管理や早期診断によって発症リスクを軽減することができます。
まとめ
- 猫は肥大型心筋症にかかりやすく、メインクーンやラグドールなどはとくに注意
- 若い猫でも発症するリスクがあるため、定期的な健康診断が重要
- 肥大型心筋症は完治が難しい病気であるため、早期発見が重要