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2021年7月、猫の慢性腎臓病治療について「AIM」が大きなニュースとして多く取り上げられました。
AIMの開発については3年前に知ったのですが、研究開発が中断となったと聞いて落胆していたんです。
今回、マスコミに大きく取り上げられたことで、マルカンから2022年3月1日にAIM活性剤を配合したフードが発売されました!
本当に猫の慢性腎臓病を治せるなら、すごいことですよね。でも本当に効果があるのでしょうか。また、副作用や安全性も気になります。
猫の慢性腎臓病の治療法の開発は、今後の猫の寿命を大幅に伸ばす可能性を秘めています。
ということで、今回は、猫の慢性腎臓病治療の大きなカギとなる猫のAIM遺伝子について解説していきたいと思います!
猫が慢性腎臓病になりやすい理由は「AIM」が機能していないから?
長年、猫に慢性腎臓病が多い理由は、猫が肉食動物で腎臓に負担のかかる肉類を多く食すためと考えられてきましたが、東大大学院医学系研究科疾患生命工学センターの宮崎徹教授は、猫に慢性腎臓病が頻発する根本的な理由は、猫の体内に存在する「AIM」遺伝子が機能していないからであるという事実を発見しました。
慢性腎臓病は、腎臓が消費されることで徐々に腎機能が低下していく病気で、回復や完治は難しく、猫の死因として最も多いとされています。
猫は先天的に非常に慢性腎臓病を発症しやすい動物で、重症化するまでは無症状のため、症状の進行度は違えど大半の高齢猫は慢性腎臓病を患っているとも言われています。
AIMとは?
腎臓にたまったゴミの掃除を促す
AIM(apoptosis inhibitor macrophage)は、体内では腎臓のゴミを掃除する働きがあります。
直訳すると「脱落を抑制するマクロファージ」で、発見当初、細胞のアポトーシス(細胞死)を抑制する分子として、マクロファージから発見されたため、宮崎教授によって名付けられました。
- A …apoptosis(離れて落ちる、脱落する)
- I …inhibitor(抑制するもの)
- M …macrophage(マクロファージ)
AIMは通常、AIMはIgM(免疫グロブリンM)と結合してタンパク質として体内に存在しています。しかし腎臓にゴミ(debris)がたまり、腎臓の機能が低下すると、AIMはIgMから離れ、AIM単体になります。
自由になった単体AIMは、腎臓フィルター(糸球体)の塞ぐゴミに付着し、AIMがゴミの目印となって、マクロファージなどの周辺の細胞が一斉にゴミを掃除し、迅速に腎臓の詰まりが解消、腎機能を改善します。
ネコ科の動物だけがAIMが正常に機能しない
人や犬、マウスのAIMは正常に機能していますが、猫を含むネコ科の動物は、AIMが機能していません。
ネコ科の動物の体内にもAIMは存在しますが、AIMがIgMと非常に強い強さで結合しているため、腎臓にゴミが溜まっても働くことができません。
その結合の強さは、マウスのIgMとAIMの結合と比較すると、約1000倍の強さであることが分かっています。
上記のように、猫は腎臓にゴミが溜まって腎機能が低下しても、IgMとAIMが乖離せず、ゴミがいつまで経っても掃除されません。
その状態が続くと、尿細管にどんどん死んだ細胞が溜まり、詰まりを引き起こします。これが、最終的に腎臓が壊れ、腎不全、尿毒症などに発展します。
猫に慢性腎臓病や腎不全、尿毒症が多いのは、猫が肉ばかりを食べるからではなく、先天的にAIMが機能せず、腎臓のゴミがこまめに掃除されなかったことが大きな要因の一つであることが証明されました。
AIM製剤の開発で猫の慢性腎臓病の治療が可能に?
培養細胞を利用した安全な動物薬
宮崎徹教授が研究開発を行うAIM製剤は、もともと体内に存在する物質を利用することから、安全性の高さでもメリットが大きいと言われています。
AIM製剤は一般的な化学合成の薬とは異なり、培養細胞によってAIMをつくり、わずかなAIMを精製するという工程でつくられますが、現状、化学合成ではなくタンパク質の動物薬は世界的にほとんどなく、開発も手探りの状態で進められてきました。
そんな中、2018年の上記記事の掲載時点で治験薬製造のための開発がほぼ終了、いよいよ製品化というところまで来ていました。
コロナによる資金不足でAIMの研究が中断
ところが、2019年12月に中国で発生したコロナウイルスの世界的流行によって資金繰りが困難になり、本来2022年には商品化を目標としていましたが、研究、商品開発を一時中断せざるをえない状況となりました。
マスコミに取り上げられ話題に!東大に個人からの寄付が殺到
寄付金が2週間で1億4,600万円に達する
2021年7月、メディアによって宮崎教授の猫の慢性腎臓病の治療法としてAIM製剤が取り上げられ、大きな話題となりました。
引用元:JIJI.COM|ネコ救いたい…東大に寄付殺到 「腎臓病薬開発に」2週間で1.4億円
愛猫を救う手助けに―。東京大大学院の宮崎徹教授が進めるネコの腎臓病治療薬開発が注目を集め、東大に個人からの寄付が殺到している。宮崎教授の研究を紹介する記事がインターネット上に配信されると、わずか2週間余りで約1万2000件の寄付が集まり、総額は約1億4600万円に達した。東大の担当者は「史上最速のペース」と驚き、寄付のさらなる広がりに期待を寄せる。
このニュースを見た一般の方から東大に寄付が殺到し、なんと、たった2週間で1万2,000件、金額にすると1.4億円の寄付が集まりました。これを受けて、宮崎教授はクラウドファンディングを行うことを発表し、寄付だけでなく、スポンサーや資金調達も順調に進みそうな兆しが見られます。
企業としても、慢性腎臓病の予防や治療に役立つ製剤があるなら、こぞって使いたいと思うはずです。これから研究再開に向けて、どのように進行していくのか、これからも随時更新していきたいと思います!
<ついに販売開始!>AIM活性化物質入りフードがマルカンから発売
画像引用元:AIM30 |株式会社マルカン
猫AIMを発見した東大宮崎徹教授と大手メーカーのマルカンが共同開発したキャットフード「AIM30」が2022年3月1日に発売されました。
AIM活性剤により、AIMが機能するよう働きかけ、腎臓にたまったゴミが取り除かれることで、腎臓の炎症で慢性腎臓病を予防する効果が期待されています。
ただAIM30はAIM製剤ではなくAIM活性剤が含まれたフードです。AIMを配合しているのではなく、猫が本来持っているAIMの働きを活性化させるためのアミノ酸が配合されたフードなので、培養細胞によってわずかなAIMを精製してつくられた薬ではないと言えます。
猫の腎臓への効果を始め、食いつきや他の原材料など、気になるところは多いかと思いますので、キャットフード勉強会でも引き続き情報や食いつき、評判など追っていきたいと思います。
まとめ
- 慢性腎臓病の治療・予防法として注目の「AIM」
- 猫だけがAIMが機能しておらず、腎臓のゴミが掃除されていなかった
- AIM製剤の投与で猫の腎臓病の進行を抑え、回復の効果が期待できる