猫はグルメで気まぐれ――そう感じたことのある飼い主さんは多いのではないでしょうか。ごはんの匂いを嗅いだだけでプイッと顔を背けたり、逆に意外なものに目を輝かせたりと、その好みはじつに多様です。
この記事では、猫が本能的に好む傾向のある食べ物や、意外と人気のある意外な食べ物、そして注意が必要な「苦手な食べ物」や「食べてはいけないもの」をご紹介します。
愛猫の食の好みに寄り添いながら、健康にも気を配るヒントを見つけてみてください。
猫が好きな食べ物
猫が好きな傾向がある食べ物をご紹介します。ただし、「好き」と「与えてよい」は別問題であり、猫の好みは個体差が大きいため、
- よく食べる猫が多い
- 強く興味を引くもの
を基準として挙げています。
肉・魚類
食べ物 | 好きな理由 | 与える注意点 |
---|---|---|
鶏肉![]() | アミノ酸の風味が猫のうま味受容体に強く訴えるため好まる | 加熱したもの |
牛肉![]() | 動物性脂肪の香りと鉄分豊富な味わいが猫の嗜好に合致しやすい | 加熱したもの |
レバー(鶏・牛)![]() | ビタミンAや鉄分などが豊富で、本能的に好まれる | 過剰摂取はビタミンA過剰症の発症の恐れ |
かつお節![]() | アミノ酸(とくにイノシン酸)が豊富で香りが強い | 過剰摂取でリン過多のリスク |
猫用ツナ缶 | 油分と魚特有の濃厚な香りにより、高い嗜好性を示す | 常食はNG、添加物注意 |
焼き魚 | 加熱によって引き出される香ばしい香りが猫の嗅覚を刺激 | 骨と塩分に注意 |
猫は肉食動物であり、動物性タンパク質や必須アミノ酸を豊富に含む肉や魚を本能的に好みます。とくに猫はうまみ成分であるグルタミン酸などのアミノ酸を舌で感じ取ることができるため、アミノ酸によって構成されるタンパク質が豊富な食べ物が好きな傾向があります。
とくに鶏ささみや牛赤身、焼き魚はうま味成分やアミノ酸の香りが強く、嗜好性が高い食べ物として知られています。加熱した鶏肉は体調を崩したときでも口にしやすく、少量のトッピングとしても優秀です。
ただし、魚の骨や塩分や、レバーのビタミンAの過剰には注意が必要です。味付けなし・加熱済みを基本としましょう。
ウェットフード・市販品
食べ物 | 好きな理由 | 与える注意点 |
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ウェットフード | 香りが強く水分量が多いため、嗅覚と食感の両面で魅力的 | 総合栄養食かどうかを確認し、開封後は早めに使い切る |
フレーク | ほぐれた肉や魚の繊維質な食感が猫の嗜好に合いやすい | 栄養バランスが偏りやすいため、主食と併用する |
チュール | とろみのある舌触りと強い香りが嗜好性を高める | 塩分や添加物の有無を確認し、おやつの範囲にとどめる |
市販のウェットフードやパウチおやつは、動物性タンパク質やアミノ酸の含有量が高く、猫の食欲をそそるよう設計されています。ゼリー状やフレークタイプのものは香りも強く、嗜好性が非常に高い傾向にあります。とくに総合栄養食タイプは栄養バランスも優れており、主食として安心して利用できます。
一方で、嗜好品としての用途に偏るとドライフードの摂取が減ることもあるため、日常の主食と併用しながらバランスを保つことが重要です。
乳製品
食べ物 | 好きな理由 | 与える注意点 |
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猫用ミルク | 母乳に近い香りや味により安心感と嗜好性が高まる。また、乳糖分解済で安全。 | 成猫は乳糖不耐症の場合が多いため、乳糖カットされた「猫用」で与える |
無糖ヨーグルト | 発酵によってまろやかになった風味とクリーミーな食感が猫の好みに合う | 乳糖や脂肪分が体質に合わない猫もいる |
猫用チーズ | 濃厚な香りと塩味が猫の嗅覚と味覚を強く刺激し、高い嗜好性を示す | 脂肪分やナトリウムが多いため、肥満や腎臓負担の原因に |
ヨーグルトやチーズといった乳製品には脂肪分やアミノ酸が含まれ、香りも強いため、猫が興味を示しやすい食べ物です。とくにプレーンヨーグルトは、猫によっては好んで舐める場合もあります。
ただし、猫は乳糖を分解する酵素が少なく、下痢や腹痛を引き起こすことがあるため、一般的な牛乳や乳製品は基本的に避けるべきです。猫に乳製品を与える際は必ず乳糖分解済みの「猫用ミルク」を選び、ごく少量のご褒美として取り入れましょう。
野菜・果物
食べ物 | 好きな理由 | 与える注意点 |
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カボチャ![]() | 自然な甘みとやわらかい食感が猫にも食べやすい | 与えすぎると便がゆるくなることがあるため、皮と種を取り除く |
ニンジン![]() | ほんのりとした甘さとやわらかく茹でた食感が好まれやすい | 皮を取り除き、加熱して与える |
枝豆![]() | 噛みごたえがあり、大豆の香ばしい風味が猫に好まれる | 皮や塩分入りの調理済み枝豆は与えず、豆だけを茹でる |
スイカ![]() | みずみずしい食感とほのかな甘みが暑い時期の水分補給代わりとして好まれる | 糖分が多いため下痢になる恐れ。種と皮を取り除く。 |
かぼちゃやにんじん、スイカといった一部の野菜や果物にも微量ながらアミノ酸が含まれており、柔らかく自然な甘みが猫の関心を引くことがあります。
ただし、猫は基本的に肉食であり、植物性食品を主な栄養源にはできません。これらの食べ物は腸内環境を整える補助的な食物繊維源として用いる程度にとどめましょう。必ず加熱し、皮や種を取り除くなど、安全性を確保したうえで少量ずつ与えることが大切です。
特殊嗜好品
食べ物 | 好きな理由 | 与える注意点 |
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マタタビ | アクチニジンやマタタビラクトンが嗅覚神経を刺激し、多くの猫が陶酔状態になる | 過剰摂取は興奮しすぎたり嘔吐・下痢の恐れ |
キャットニップ | ネペタラクトンという成分が脳内の快感中枢に作用し、猫にリラックスや多幸感をもたらす | 反応しない猫もいる一方で、興奮が強すぎる場合もある |
マタタビやキャットニップには、猫の嗅覚を刺激する「マタタビラクトン」や「アクチニジン」といった特殊な芳香成分が含まれています。一部の猫に陶酔や興奮に似た反応を引き起こし、ストレス解消や遊びのモチベーションにもつながります。これらは味覚や栄養の好みとは異なる、嗅覚による行動反応です。
ただし、すべての猫が反応するわけではなく、過剰に与えると吐き気や神経過敏を招くこともあるため注意が必要です。週に1〜2回程度の頻度で、あくまでご褒美や気分転換として取り入れましょう。
人間の食べ物
食べ物 | 好きな理由 | 与える注意点 |
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焼き魚の香り | 加熱によって生まれる香ばしさや脂のにおいが猫の嗅覚を強く刺激 | 塩分や骨が危険なため、与える場合は無塩・骨なしの加熱魚をごく少量 |
バターの香り | 乳脂肪由来の濃厚な香りが猫の嗜好を刺激 | 脂肪分と塩分が多いため与えるべきではない |
パン | 発酵による香ばしさや小麦の甘みが猫にとって魅力的 | 塩分や添加物が多いため、おやつとしても不適切で与えるべきではない |
猫はアミノ酸や脂肪分の香りに敏感なため、人間の食事のなかでも焼き魚やバターのような食べ物に強い興味を示すことがあります。また、「飼い主と同じ行動をとりたい」という興味や好奇心の表れから、飼い主の食べ物に興味を持つ猫も多いです。
とはいえ、人間の食べ物には塩分・糖分・香辛料・添加物が含まれていることが多く、猫の健康には大きな負担となります。また、ネギ類やチョコレートなど、少量でも中毒を引き起こす危険な食べ物もあります。猫が欲しがっても決して与えず、猫専用に安全に設計されたフードを優先することが大切です。
猫が苦手な食べ物
猫が苦手な傾向がある食べ物をご紹介します。
個体差があるため、すべての猫に当てはまるわけではありませんが、「一般的に嫌がる傾向があるもの」「味覚・嗅覚的に好まれにくいもの」「アミノ酸が少なく嗜好性に乏しいもの」などを中心にまとめています。
香り・味・舌触りが苦手な食べ物
食べ物 | 嫌い・苦手な理由 |
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柑橘系 | オレンジやグレープフルーツなど柑橘類のリモネンなどは刺激が強く、不快や警戒の対象になりやすい |
香辛料 | 猫の嗅覚や粘膜を強く刺激し、味や香りともに本能的に避ける傾向がある |
香りが強い野菜 | セロリやピーマンなど刺激臭のある野菜は猫の嗅覚にとって不快 |
海藻 | 海藻のぬめりや独特の磯臭さは食欲がそそられず、また消化もしにくい |
猫は非常に嗅覚が鋭いため、柑橘類や香辛料のように刺激の強い匂いには敏感に反応し、不快感を示すことが多くあります。
ピーマンやセロリのような香りの強い野菜は、猫にとっては「食べ物」として認識されにくく、口にしても吐き出してしまうケースがよく見られます。
そもそも、猫は植物に含まれる渋みや青臭さを感知するための味覚受容体を持っていないと考えられています。これは、猫が完全な肉食動物であり、植物を摂取する必要がないため、進化の過程でこれらの受容体を失ったと推測されています。その結果、猫は植物由来の渋みや青臭さに対して鈍感であるとされています。
また、口にすること自体は問題ありませんが、猫にとって消化しにくい穀物は主食として食べるにはあまり向きません。
参考:動物の味覚を遺伝子から探る|岐阜大学動物遺伝学研究室 准教授 松村秀一
動物性食品で苦手とするもの
食べ物 | 嫌い・苦手な理由 |
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脂の多い肉類 | 脂肪のにおいや重たい食感が猫の消化器に負担をかけやすく、食後に気持ち悪さを感じて避ける |
魚の内臓 | 独特の強い生臭さや苦みが猫の嗜好に合わない |
生の魚類 ・エビ ・イカ ・タコなど | チアミナーゼがビタミンB1を破壊するリスクがあるため、本能的に避ける |
生の貝類 ・ホタテ ・アサリなど | アミノ酸は含むが、磯臭さや硬い食感、消化のしにくさから猫の好みに合いにくい |
猫は基本的に動物性の食品を好みますが、例えば脂身の多い豚肉や牛肉はにおいが重く、脂の舌触りを嫌がる個体も少なくありません。また、魚の内臓やはらわたは強烈なにおいがあり、本能的に避けることがあります。加えて、アサリやホタテなどの貝類や生卵の白身などはにおいや食感が猫に合わず、好まれないだけでなく、過剰摂取で栄養障害を引き起こすリスクもあります。
また、生の魚や肉については、消化が悪く下痢や嘔吐の原因になるため、加熱して与えるようにしましょう。とくに生のエビ・カニ・イカ・タコ等には、ビタミンB1を分解する「チアミナーゼ」が多く含まれるため、ビタミンB1欠乏症による神経麻痺などの危険がありますが、加熱すれば問題なく与えられます。
乳製品や嗜好品で苦手なもの
食べ物 | 嫌い・苦手な理由 |
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牛乳 | 乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)が不足している猫が多く、飲むと下痢や腹痛を起こすため、本能的に避ける |
酸味の強いヨーグルト | 強い酸味や発酵臭は猫の嗜好に合わず、刺激臭と感じて嫌がる |
猫はバターやヨーグルトなど乳製品に興味を示すことがある一方で、乳糖を分解する酵素が少ないため、実際には好んで食べる猫ばかりではありません。とくに市販の牛乳や酸味の強いヨーグルトは、お腹を壊すリスクがあるうえに匂いで警戒されることもあります。
人間の食べ物(危険なもの)
食べ物 | 嫌い・苦手な理由 |
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ネギ類 | 玉ねぎやニンニクなど、独特の刺激臭を嫌うだけでなく、赤血球を壊す成分を含むため本能的に避ける |
チョコレート コーヒー 紅茶 | 含有されるカフェインやテオブロミンは猫にとって中毒性があり、体調不良を引き起こす危険がある |
アボカド | 中毒成分ペルシンが含まれ、胃腸不良や下痢、嘔吐などの症状があらわれる可能性 |
アルコール類 | ビールやワインなどアルコールの揮発性の強い匂いは猫の嗅覚には極めて不快 |
甘い食べ物 | ケーキや生クリームなど、猫は甘味を感じる受容体を持たないため、味として魅力を感じず、関心を示しにくい |
ネギ類(たまねぎ、にんにく)は中毒のリスクがあり、猫は本能的に避ける傾向があります。また、チョコレートやコーヒーなどに含まれるカフェイン類、アルコール類は少量でも命に関わる危険な食べ物です。
さらに、猫は甘味を感じないという特徴から、人工的な香味料や甘味料を含むものは総じて苦手・興味がない傾向があります。
どの食べ物も過剰摂取はNG、調理方法も重要

猫が苦手な食べ物はもちろん、好きな食べ物であっても、与える量や調理方法は守らなければなりません。少量・加熱済み・無添加が基本となり、高頻度で与えないようにしましょう。
例えば、鶏ささみやかぼちゃなどは猫に好まれやすく健康にも良いとされる食べ物ですが、過剰に摂取すると栄養バランスが崩れたり、肥満や消化不良を引き起こしたりする恐れがあります。とくにおやつやトッピングとして用いる場合は、「たくさん食べる=喜んでいる」と誤解せず、あくまで少量・適量を守ることが大切です。
また、猫が嫌い・苦手な食べ物として生の魚介類や貝類を挙げましたが、加熱処理など適切な調理を行えば、これらの食材は良質なタンパク源やミネラルを含む、猫の健康に役立つ食材へと変わります。
さらに、調理方法にも注意が必要で、必ず塩分や油を使わず、加熱してから与えるようにしましょう。
猫の健康を守るためには、「何をあげるか」だけでなく、「どう与えるか」も大きなポイントとなります。
まとめ
猫の味覚特性を理解することで、好まれる食事や避けるべき食材を見極め、より健康的な食生活に役立てることができます。
猫の好きなものや苦手なものを把握し、日々の食事に反映させることで、健康維持やストレス軽減につなげていきましょう。