キャットフードのビタミンD(カルシフェロール)。骨や歯の成長や維持に関与、日光浴でも合成可能

キャットフード ビタミンD

キャットフードの栄養素:ビタミンD(Vitamin D)

ビタミンDは、骨や歯の成長や健康維持のために働く栄養素で「カルシフェロール(Calciferol)」を指します。

カルシフェロールには、植物性のビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と、動物性のビタミンD3(コレカルシフェロール)があり、このうち動物性ビタミンD3のコレカルシフェロールは、日光浴によって紫外線を浴びることで生合成することが可能です。

主な供給源としては肝油、卵黄カレイ、サンマ、イワシ、サケ、しらす、きのこ類、天日乾燥の乾草などでありますが、ペットフードなど飼料中のビタミンDは保管期間中の損失が大きく、22℃で6ヶ月間保存すると約30%が減少してしまうので、キャットフードでは保管期間中にビタミンD量が最低基準を下回らないよう栄養添加物等を用いてビタミンDが補われています。

日光浴でビタミンDを生合成する仕組み

ビタミンDの産生と代謝

動物の皮膚では紫外線を吸収することで、コレステロールからビタミンDを合成することができます。

ビタミンDの産生と代謝
  1. 皮膚にあるコレステロールは代謝されプロビタミンD3(7-ヒドロキシコレステロール)へ変化します
  2. 紫外線を浴びることでプロビタミンD3はプレビタミンD3へ変化します
  3. プレビタミンD3が肝臓や脂肪組織に蓄積され25-ヒドロキシビタミンDへ変化します
  4. ビタミンD結合タンパク質と結合し、血流に乗って運ばれます
  5. 腎臓で25-ヒドロキシビタミンDが水酸化され活性型ビタミンDになります

活性型ビタミンDになってようやくビタミンDとして働くことができます。

この腎臓での水酸化は、血中カルシウム濃度の低下によって分泌される「副甲状腺ホルモン」によって促進されます。反対に、血中カルシウム濃度が上昇すると分泌されるカルシトニンという物質は、活性型ビタミンDへ変化するための水酸化を抑制する働きがあります。

犬や猫は生合成してもコレステロールに戻りやすい

上のイラストにもあるように、コレステロールとプロビタミンDとの間には、矢印が上下の両方向にあり、コレステロールからプロビタミンD3に変化するだけでなく、反対にプロビタミンD3からコレステロールにも変化することが示されています。

犬や猫はビタミンDを日光から作ることができますが、反対にコレステロールに戻す酵素活性も強いため、犬や猫の皮膚ではプロビタミンD3濃度が低く、このため、他の動物と比較してビタミンD3合成量が少なく、食事からの摂取が必要とされています。

ビタミンDの働き

骨代謝の維持や成長促進

ビタミンDの主な働きは遺伝子発調節を介して、骨を構成するカルシウムとリンの代謝を調整することです。

カルシウム・リンの吸収促進・排泄の抑制、骨からの溶出(骨の吸収)を促進するなど、体内のカルシウムとリンの濃度を調整しています。

副甲状腺機能維持

ビタミンDがカルシウム濃度を維持することで副甲状腺ホルモンは正常な機能を維持できます。ビタミンDは、血中のカルシウム濃度を維持しているので、もし機能しなくなると代わりに血中カルシウム濃度の調節を行うために副甲状腺ホルモンが増加し、副甲状腺機能亢進症などの問題を引き起こします。

キャットフードに必要なビタミンD量

ビタミンD キャットフード画像引用元:2016 AAFCO Midyear Meeting Committee Reports

ペットフード公正取引協議会が採用している総合栄養食の栄養基準を定めるAAFCOでは、ドライタイプのキャットフードのビタミンDの最低基準は、幼猫、成猫期どちらも280 IU/kg以上、最大値は30,080 IU/kgと定められています。

キャットフードでは、保存中に損失される分も考慮して賞味期限まで保存してもビタミンDが最低基準を下回らないように、栄養添加物等で調整がされています。反対に賞味期限を過ぎてしまうと、ビタミンDが必要量摂取できない可能性があるとも言えます。

ビタミンDの欠乏/過剰摂取

欠乏症

活性型ビタミンは腎臓での水酸化が必須の課程となるので、腎臓機能が低下してる慢性腎臓病の猫は特にビタミンD欠乏症が起こりやすくなります。

  • クル病
  • 骨軟化症
  • 低カルシウム血症
  • 副甲状腺機能亢進症
  • 下半身麻痺
  • 運動失調

典型的なビタミンD欠乏としては、骨の異常が知られています。ビタミンD欠乏はカルシウム、リンの吸収低下によって骨のミネラル量を減少させ、成長期の動物では骨の奇形を伴うクル病を、成熟した動物では、骨の奇形が生じることはありませんが、骨軟化症と呼ばれるミネラル減少による骨の脆弱化が生じます。

過剰摂取

  • 高カルシウム血症
  • 軟組織でのカルシウム異常沈着

ビタミンDを過剰摂取すると、血中の25-ヒドロキシビタミンD濃度の上昇を引き起こします。25-ヒドロキシビタミンDも、活性型ビタミンDと同様の作用をわずかに有するため、高カルシウム血症や、血管・心臓などの軟組織でのカルシウム異常沈着が生じ、程度によっては死に至る場合もあります。

キャットフードによるビタミンD過剰症

ビタミンD過剰症 猫
画像引用元:キャットフードに起因した猫のビタミンD過剰症 岩手大学農学部|日本小動物獣医学会

<一部抜粋>

要約:1990年5~7月。キャットフードによるビタミンD中毒が疑われた猫4頭について、血中ビタミンD代謝産物濃度とキャットフード中のビタミンD含有量を測定し、石灰沈着との因果関係を追究した。また、4頭の実験猫を用いてそのキャットフードによる給与試験を実施した。全症例は同一市販キャットフードを主体に飼育され、症例1と2は尿毒症に陥っていた。血漿Ca濃度は症例1の初診時を除き全症例で11mg/dl以上を、また25(OH)D濃度は100ng/ml以上を呈した。死亡例では全身性の石灰沈着が著明に認められ、上皮小体の萎縮が観察された。いっぽう、キャットフード中のビタミンD含有量は5,290IU/100gと異常な高値を示し、キャットフードの給与試験では給与開始後血漿25(OH)D濃度は著しく上昇しCa濃度も増加した。

考察:ビタミンD3はマグロのような回遊魚の肝臓や魚肉、肝油に多く含まれており、植物由来のビタミンD2よりもD3の方が生体内では10~20倍も毒性が強いといわれている。したがって、キャットフードの原材料に猫の好むマグロのような魚の肝臓が多量に使われていた可能性が考えられる。最近では、ペットフード業界における栄養成分についての基準値作りが進んでおり、実際にN社ではその後キャットフードの内容を大幅に変更してビタミンD含有量を是正しビタミンDの上限値を設定した。いずれにしても、ペットフードの氾濫する現在においては何らかの機関における栄養基準の制定と厳重なチェック体制が必要であると考えられる

1990年の試験なので、30年以上前の発表ですが、キャットフードにビタミンDが大量に含有されたことで、ビタミンD中毒を引き起こし、死亡した例が報告されています。

上記で異常なビタミンD含有量を示したキャットフードのビタミンD量は、5,290IU/100gと記載されていますが、AAFCOが提示するキャットフードの栄養基準では、ビタミンDの最大値は30,080 IU/kg。つまり、AAFCOの栄養基準は、異常なビタミンD量でもクリアできており、このためビタミンD量は各メーカーや企業の知識量や管理に委ねられるということになります。

まとめ

  • ビタミンDはカルシウムやリンの吸収や濃度を調整
  • 骨や歯の成長や健康維持に深く関与している
  • 日光浴で合成することは可能だが必要量には満たない
  • 慢性腎臓病の猫はビタミンD欠乏症になりやすい
キャットフード ビタミン

キャットフードのビタミン類。猫の必須ビタミンの種類と働き、欠乏症/過剰摂取の症状を解説

2018年9月25日

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一般社団法人ペットフード協会ペットフード販売士、キャットフード勉強会ディレクターとして、キャットフードに関する情報を提供しています。また、日本化粧品検定協会のコスメコンシェルジュ資格を有し、ペットフードだけでなく化粧品にも精通しています。販売時に必要な知識となる薬機法などについてもご紹介ができます。 日本化粧品検定協会会員。