人獣共通感染症(Zoonoshis)とは
動物が保持する細菌や寄生虫による感染症
画像引用元:動物由来感染症 ハンドブック2018|厚生労働省
人獣共通感染症【動物由来感染症(ズーノシス:Zoonosis)】とは、名前の通り動物と人どちらにも感染する感染症で、動物由来感染症の原因となる病原体の多くは本来動物が持っている細菌や寄生虫です。
感染症は、同種同士(人から人へ、ネコからネコへ)でしか感染しないものも多くありますが、感染動物との接触や糞便から体内に細菌や寄生虫、ウイルスが人に侵入し、人や他の動物が感染することがあります。
感染源の多くは、伴侶動物(猫、犬など)、野生動物(野鳥、鹿、猪、ヤマネコなど)、家畜動物(牛・鶏・豚など)・展示動物(イルカ、ライオン、ゾウなど)のいずれかに分類されます。
動物に無害でも人には危険な場合も
人獣共通感染症は、人に感染すると重度の障害や命に関わる場合もあるため、ペットの感染症予防や対策にも気を配る必要があります。
近年は犬や猫を始め、様々な動物の輸入・飼育が盛んになったことで、これまで知られていなかった病原体が次々と確認されるようになりました。
現在、人の感染症は医学が、動物の感染症は獣医学が対応をしていますが、人獣共通感染症については、医学と獣医学の双方が対応し、適切な予防と対処を行っていくことが重要です。
人獣共通感染症一覧
病名 | ヒトの症状 | 感染源となる動物 | 猫が感染源となる |
---|---|---|---|
BSE(牛海綿状脳症) | 運動機能障害、神経症状 | ウシ | |
高病原性鳥インフルエンザ | 発熱、頭痛、関節痛、肺炎 | 鳥類 | |
サル痘 | 痘瘡に類似の症状 | リス、プレーリードッグ | |
腎症候性出血熱 | 発熱、出血、ショック、腎炎 | げっ歯類 | |
ハンタウイルス肺症候群 | 肺炎、肺浮腫 | げっ歯類 | |
狂犬病 | 神経症状 | イヌ、ネコ、その他哺乳類 | ● |
Bウイルス感染症 | 神経症状 | サル | |
ニューカッスル病 | 結膜炎 | 鳥類 | |
ラッサ熱 | 発熱、出血、ショック | げっ歯類 | |
エボラ出血熱 | 発熱、出血、ショック | サル、(コウモリ?) | |
マールブル病 | 発熱、出血、ショック | サル、(?) | |
リンパ急性脈絡髄膜炎 | 髄膜炎 | げっ歯類 | |
鼠咬傷 | 発熱、リンパ節炎、関節痛 | げっ歯類 | |
ブルセラ症 | 発熱、頭痛、関節痛 | イヌ | |
結核 | 肺結核、皮膚結核 | イヌ、サル | |
サルモネラ症 | 胃腸炎、敗血症、保菌 | イヌ、ネコ、その他哺乳類 | ● |
細菌性赤痢 | 胃腸炎、敗血症、保菌 | サル | |
ペスト | リンパ節炎、肺炎、敗血症 | げっ歯類、プレーリードッグ | |
パルツレラ症 | 創傷、気管支肺炎 | イヌ、ネコ、その他哺乳類 | ● |
エルシニア症 | 胃腸炎、敗血症、保菌 | イヌ、ネコ、げっ歯類 | ● |
カンピロバクター症 | 胃腸炎、保菌 | イヌ、鳥類 | |
レプストピラ症 | 発熱、発熱、出血、黄疸、腎炎 | イヌ、げっ歯類 | |
野兎病 | 発熱、リンパ節炎 | げっ歯類、プレーリードッグ | |
ライム病 | 遊走性紅斑、発熱 | げっ歯類 | |
猫ひっかき病 | リンパ節炎、発熱、脳炎 | ネコ、まれにイヌ | ● |
非定型型抗酸菌 | 結核様病変、皮膚結節 | 鳥類、魚類 | |
エーリキア症 | 発熱、頭痛、筋肉痛 | イヌ | |
オウム病 | 肺炎 | 鳥類 | |
Q熱 | 肺炎、不定愁訴 | イヌ、サル | |
皮膚糸状菌症 | 皮膚炎 | イヌ、ネコ | ● |
クリプトコッカス症 | 呼吸器症状、神経症状 | 鳥類(とくにハト)、イヌ、ネコ | ● |
トキソプラズマ症 | 脳水腫、脈絡脳膜炎 | ネコ | ● |
クリプトスポリジウム | 水溶性下痢 | イヌ、ネコ、げっ歯類 | ● |
アメーバ赤痢 | 胃腸炎、保菌 | サル、イヌ | |
犬猫回虫幼虫移行症 | 失明、肺炎、喘息 | イヌ、ネコ | ● |
アライグマ回虫幼虫移行症 | 好酸球性髄膜脳炎 | イヌ | |
エキノコックス症 | 肝障害、呼吸器・脳症上 | イヌ | |
糸状虫症 | 咳、胸痛、発熱、呼吸困難 | イヌ、ネコ | ● |
疥癬 | 皮膚炎 | イヌ、ネコ | ● |
ノミ刺咬傷 | 皮膚炎 | イヌ、ネコ | ● |
猫ひっかき病(バルトネラ症)
猫ひっかき病は、バルトネラ菌に感染した猫にひっかかれたり噛まれることで感染します。感染例も多く確認されていて、特に西日本での感染が多い感染症です。
バルトネラ菌は猫の爪や唾液に生息しているので、人が猫ひっかき病に感染すると、傷口近くのリンパ節が大きく腫れたり発熱などの症状が現れます。重篤な症状を引き起こすことは少ないものの、頭痛や喉痛、脳炎、眼病変などを起こす場合もあるようです。
バルトネラ菌はノミの給血によって犬や猫に感染を広げますが、猫がバルトネラ菌に感染してもほとんどが無症状のため、飼い主さんに感染しても、猫ひっかき病が原因だと気づかない場合も多いかもしれません。
パスツレラ症
パスツレラ症は、猫の口の中に100%存在するパスツレラ菌が人に感染することが発症する感染症です。パルツレラ菌も猫にかまれたり引っかかれたりすることで細菌に感染します。
もちろん猫にとっては害がなく無症状ですが、人に感染すると1~2日の間に傷に激しい痛みが現れ、皮膚が腫れて化膿します。
また経気道感染や飛沫感染などで感染することがあり、呼吸器系の疾患が出ることもあります。
トキソプラズマ症
トキソプラズマ症とは、猫の糞便に排出されるトキソプラズマという寄生虫が感染することで引き起こされる感染症です。トキソプラズマ原虫は感染した猫の腸管細胞の中で有性生殖を行い糞に排出されます。感染は2~3日以降から始まって1年以上持続すると言われており、かなり長期間の感染力を持っています。
トキソプラズマ症に感染して特に危険なのが、妊娠中の女性(胎児)で、トキソプラズマに妊娠中の女性が初めて感染すると、トキソプラズマが胎児に移行して流産や早産を招きます。
また、子猫がトキソプラズマに感染した場合、急性感染で死に至ることもあります。
トキソカラ感染症
トキソカラ感染症とは猫回虫という線虫(寄生虫)が引き起こす感染症です。猫がトキソカラ感染症にかかっても症状はほとんど現れず問題なく過ごすことができますが、人がトキソカラ感染症にかかってしまった場合、様々な症状を引き起こします。
感染経路としては、猫の糞便、糞便がついた砂や猫が手足で糞便に触って人に感染するなどのルートが考えられます。
トキソカラ感染症は、発熱、食欲不振、筋肉痛、咳、喘息のような発作、肝臓や脾臓の腫れ、肺炎、脳炎の発症などを引き起こします。回虫が目に移行すると失明することもあるため、猫の糞便の取り扱いには十分な注意が必要です。
皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌症は、皮膚糸状菌が皮膚の角質層や被毛などで増殖することでかゆみや発疹などを引き起こす感染症で、たむしや水虫なども含まれます。
糸常勤は真菌(カビ)の一種で、土壌や他の動物から感染します。
感染すると、人も猫も、角質や被毛、爪で繁殖し、ふけや脱毛、かゆみなどの症状を引き起こします。好発品種としてペルシャやヒマラヤンなどが挙げられます。
疥癬(かいせん)
疥癬はヒゼンダニ科のダニが寄生することで発症する感染症で、人にも感染する人獣共通感染症です。
激しいかゆみや化膿、脱毛や異臭、かさぶたなどの症状が現れます。免疫不全の猫に感染しやすいので子猫や老猫、免疫不全疾患のある猫は要注意。
人獣共通感染症の予防方法
画像引用元:人と動物の共通感染症に関するガイドライン|環境省
人獣共通感染症はその感染症によって対策はそれぞれ異なりますが、次のような予防方法があります。
- 完全室内飼い
- 口を舐めさせない
- 爪を定期的に切る
- 動物の健康維持と免疫力の維持
- ワクチン摂取
- 糞便の処理時は手袋を着用する
- 駆虫を行う
- 安易に野生動物や野良犬・野良猫に接触しない