人獣共通感染症:猫ひっかき病(CSD)
バルトネラ菌を保有する猫との接触で感染
猫ひっかき病(CSD:Cat Scratch Disease)は、動物と人の間でも感染する人獣共通感染症の一つで、バルトネラ菌を保有する動物に噛まれたり引っかかれたりすることで感染します。
猫ひっかき病の病原体は最近までは不明でしたが、1992年に桿菌であるバルトネラ・ヘンセレ(Bartonella henselae)であることが判明しました。
猫の10匹に1匹はこのバルトネラ菌を保有しており、猫同士ではネコノミの排泄物(糞)を介して他の猫の体内に侵入し繁殖します。
バルトネラ菌の保有は西日本に多い
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寒冷な地方では分離されず、温暖な地方の猫の保菌率(12~20%)が高い。したがって、CSDの報告は西日本に多い。また、CDSの発生には季節性がみられ、7~12月に多い。
バルトネラ菌は気温が高い西日本で保菌率が高いとされています。
また、ケンカする機会が多い野良のオス猫が保菌率が高い傾向にあります。特に未去勢のオス猫はホルモンの影響で攻撃的になっていることが多く、ひっかかれたり噛まれないように気を付けなければなりません。
野良猫や子猫からの感染が多い
野良猫やよく屋外に出る猫は、他の猫との接触機会が多いため感染しやすい傾向があります。また生後6か月未満の猫の感染率も高いようです。潜伏期間は1年半と長く、元野良猫だった猫もしばらくは菌を保有している可能性があります。
猫ひっかき病の発症率
CSD63例の発症原因は、猫によるひっかき傷が49.2%、咬傷が3.2%であり、猫による外傷の既往がない接触のみが41.2%であった。また、3.2%は猫ノミに刺されることにより、猫ノミからヒトへ感染したと思われる症例であった。一方、犬との接触による感染例は3.2%であり、犬も感染源になり得る。
猫ひっかき病は猫にひっかかれたことによる発症が一番多く、症例の約半数となりました。またひっかかれたり噛まれたりされなくても、猫ノミから人へ感染した症例もあるこことが分かりました。
犬や猿からの感染も「猫ひっかき病」
バルトネラ菌は猫だけが保有している菌ではありません。犬や猿など他の動物からの感染も確認されており、猫以外の動物からの感染であっても病名は「猫ひっかき病」と呼ばれます。
猫ひっかき病の症状
皮膚が虫刺されのように赤く腫れる
バルトネラ菌は猫の体内では基本的に無害ですが、猫と接触して人の体内に入ると数日から1ヶ月程度の潜伏期間を経てリンパ節の腫れを引き起こし、皮膚には虫刺されのような赤み、腫れが見られ、発熱や倦怠感、関節痛などが出る場合もあります。
肉芽腫や肺炎、脳炎、合併症を引き起こす場合もある
猫ひっかき病による肉芽腫や肺炎、脳炎、急性脳症、多発性結節性などの症例も確認されています。特に免疫力の弱った高齢者は合併症を引き起こす可能性もあるので注意しなければなりません。
猫ひっかき病の治療
ひっかかれた傷が深い、ひっかかれた傷の治りが遅い、止血後も体調が優れないなどの場合は、すぐに皮膚科や感染症内科などを受診しましょう。
猫ひっかき病は重い症状が出なければ治療が必要ないことも多く、放っておけば自然に収まるケースがほとんどですが、中には完治までに数か月かかる場合もあります。
治療法としては鎮痛薬や湿布などが一般的で、他臓器への影響がある場合にはそれに応じた検査や投薬などの治療が行われます。
猫ひっかき病の予防方法
野良猫:接触を避ける
猫ひっかき病の予防としては、野良猫との接触を避けることです。またひっかかれたり噛まれないように厚手の手袋をするなどの予防法があります。
もし接触した場合は、接触後の消毒や手洗いなどを徹底しましょう。
飼い猫:清潔を保つ
飼い猫の場合は接触を避けるのは難しいので、下記のような方法で猫ひっかき病を予防します。
- 過度なスキンシップ(猫とキスをする、顔を舐めさせるなど)を避ける
- ノミの駆除
- 定期的な爪切り
- 完全室内飼育
- ストレスを溜めさせない
飼い猫の場合は定期的な健康診断やノミの駆除、ワクチン接種などを行うため、衛生管理の面では猫ひっかき病になるリスクは低いといえます。
しかしストレスを溜めてしまった猫は飼い主さんに対してもひっかいたり噛みついたり攻撃的になる可能性があるため、日頃からストレスを溜めないように生活環境やスキンシップ方法に気を付けることが大切です。
まとめ
以上猫ひっかき病についてお話してきました。猫ひっかき病は猫にとっては無害なものです。また人に感染しても基本的には自然治癒で治りますが、感染する人によっては重い症状や他の病気を引き起こす場合もあり、油断できません。
愛猫の衛生管理やノミ駆除、飼育環境などに気をつけて予防しましょう。