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最近では調合された人間用漢方薬がドラッグストアなどで売られていて、人間にとって身近な存在になっていますよね。
実は漢方薬は猫にも効果があり、しかも副作用が少ないという特徴があるんです。近年では漢方薬を用いた治療を行う獣医師さんも増えてきています。
今回は猫の健康に漢方薬がどのように効果があるのか、猫に使用される漢方薬の種類などについてご紹介します。
漢方薬(herbal medicine)とは
症状緩和や体質改善が目的
漢方薬とは中国医学の理論に基づいて処方される自然由来の薬剤で、複数の生薬(植物や鉱物、動物由来の成分)を組み合わせて作られます。
西洋医学は症状を抑えることに重点を置くのに対し、漢方は病気そのものを治すというよりは、病気や症状の緩和、体質改善、体が本来持つ回復力を引き出すなどを目的として使用されます。即効性はありませんが、副作用が少なく安全性が高いとされます。
ただし漢方薬は症状の根本改善に時間がかかるため、西洋医学の治療と併用し、獣医師の指導のもとで適切に使用することが重要です。
副作用が少ない
漢方薬は自然由来の成分を使用しているため、西洋薬と比べて副作用が非常に少ないとされています。
ただし、「副作用が全くない」というわけではありません。猫の体質や投与量によっては嘔吐や下痢、アレルギー反応などが現れることがあるため、しっかりと獣医師さんや漢方専門家と相談することが大切です。
漢方薬を猫に与えるのは何歳から?
子猫は症状悪化スピードが早い
猫に漢方薬を与える際の年齢に明確な制限はありません。
しかし子猫は体の発育が未成熟であり、消化機能や免疫力が完全ではないため、漢方薬の成分に敏感に反応して消化不良などを引き起こす恐れがあります。
また子猫は成猫に比べて症状が悪化するスピードが早いです。そのため、症状をゆっくり緩和して体質改善をする目的である漢方薬は、子猫の病気に対する緊急性という面では不向きでしょう。
高齢猫には負担となる
高齢猫も子猫同様、体力や臓器機能が低下しているため漢方薬が負担になる可能性があります。
漢方薬を健康維持や病気の改善に役立てるには、どの年齢の猫であっても体質や症状に応じた適切な漢方薬の処方が重要となります。
猫に漢方薬を使用するタイミング
- 西洋薬で症状の改善がみられないとき
- 体調が悪いが、原因の病気がみられないとき
- ステロイド剤の投与量を抑えたいとき
- 病気の治療のサポートをするとき
猫に使用される主な漢方薬
猫の病気に対して用いられることが多い漢方薬と効果をご紹介します。
効果 | |
---|---|
六味地黄丸 (ろくみじおうがん) | 腎臓の働きを助ける 体力低下をサポート |
補中益気湯 (ぼちゅうえっきとう) | 食欲促進 消化器系の改善 元気回復 |
抑肝散 (よくかんさん) | ストレス症状の緩和 攻撃性の緩和 神経の安定化 リラックス効果 |
牛車腎気丸 (ごしゃじんきがん) | 関節炎の緩和 下半身の弱り改善 むくみの改善 筋力を補強 |
十全大補湯 (じゅうぜんたいほとう) | 免疫力の向上 治癒の促進 手術後の体力回復 |
平胃散 (へいいさん) | 消化機能を整える 下痢の改善 胃腸の強化 |
加味逍遙散 (かみしょうようさん) | ストレス性嘔吐の改善 精神の安定 |
清熱解毒湯 (せいねつげどくとう) | 皮膚炎や痒みの緩和 アレルギー症状の緩和 |
香蘇散 (こうそさん) | 軽度の風邪症状の改善 ストレスによる胃腸不調の緩和 |
竜胆瀉肝湯 (りゅうたんしゃかんとう) | 泌尿器系トラブルの緩和 |
茯苓 (ぶくりょう) | むくみ改善 ストレス緩和 胃腸の調子を整える |
猫の健康に対する漢方薬の効果
慢性腎臓病の症状緩和
参考:意外と知らない猫統計|アニコム をもとに作成
高齢猫の死因で最も多いといわれる慢性腎臓病。腎臓病は6歳以上になると罹患率が急激に上昇し、12歳以上の約30%が慢性腎臓病になるといわれています。腎臓病は完治が難しい病気なので、早期発見による早期治療、症状の緩和が非常に重要となります。
漢方薬は腎機能の低下を緩やかにし、症状を和らげる補助療法として用いられることが多いです。
例えば六味地黄丸は腎機能をサポートして体力を補う効果があり、高齢猫や慢性腎不全の進行抑制に役立つとされています。
また牛車腎気丸は腎機能を強化し、むくみや体の冷えを改善する働きがあります。
消化器系の改善
漢方薬は胃腸の弱い猫に対して、胃腸の機能を整え、消化不良や食欲不振、嘔吐などの症状を改善することを目的として使用されることがあります。
例えば補中益気湯は虚弱体質や食欲低下に、平胃散は消化不良や胃のむかつきに効果があり、胃腸の働きを整え、栄養の吸収を助ける効果があります。これらの漢方薬は胃腸の「気」や「湿気」を調整し、健康状態を根本から改善します。
免疫力の向上
免疫系が弱い猫には、黄耆や人参を含む漢方薬が効果的です。これらは免疫細胞を活性化し、感染症やアレルギー症状の予防・緩和に役立ちます。また十全大補湯は手術後や体力低下時の免疫回復に効果的です。
ストレス軽減と行動改善
猫はストレスに敏感な動物で、ストレスが溜まると健康問題の原因になることがあります。
抑肝散は攻撃性や神経過敏を抑え、加味逍遙散は気分を落ち着かせる効果があり、ストレス性の体調不良に使用されます。また茯苓はストレス解消や心を安定させる働きがあります。
ストレスが軽減されることで猫の問題行動も改善されるでしょう。
皮膚トラブルの改善
漢方薬は皮膚の痒みや炎症、湿疹、アレルギー性皮膚炎などの皮膚トラブルにも効果があります。十全大補湯は免疫力を高めて皮膚の再生を促し、清熱解毒湯は炎症や感染症を抑える効果があります。
漢方薬を使う際の注意点
漢方薬は自然由来で比較的安全性が高いとされますが、使用には注意が必要です。
少量からスタートする
初めて漢方薬を与える際は少量から始めて猫の反応を観察しましょう。嘔吐や下痢、食欲不振などの異常がみられた場合はすぐに使用を中止し、獣医師に相談してください。
人間用の漢方薬は与えない
生薬の中には猫の健康にとって害となるものもあります。そのため、人間用の漢方薬は猫に与えることはやめましょう。
漢方薬と西洋薬の併用
漢方薬と西洋薬の併用は可能です。併用することで成分が互いに影響し合い、相乗効果が期待できます。
しかし、漢方薬と西洋薬を同時に与えると胃腸への負担が増えたり、吸収が阻害される恐れがあります。そのため、両者の投与時間は2~3時間以上空けることが推奨されます。
細かな観察が大切
漢方薬はゆっくり時間をかけて症状を緩和するのに対し、西洋薬は即効性に優れています。そのため、漢方薬と西洋薬を併用するときは症状の変化や副作用などを細かく観察し、必要に応じて調整を行わなければなりません。
まとめ
- 漢方薬は自然由来の薬剤なので副作用が非常に少ない
- 西洋医学の目的は病気を治すこと、漢方の目的は症状の緩和
- 高齢猫がかかりやすい慢性腎不全の緩和にも効果的
- 西洋薬と漢方薬の併用は可能だが、投与時間は2~3時間あける