最近なんだか猫の歩き方がぎこちないし、運動もあまりしなくなりました…。いつもと違う様子でとても心配です。
猫の動きや行動に異変を感じた場合、まずはケガや病気を疑いますが、もしスコティッシュフォールドやマンチカン、ペルシャなどと暮らしている場合は「骨軟骨異形成」という遺伝性疾患の可能性もあります。
今回は骨軟骨異形成症の概要や症状、原因、飼い主さんができる対策について解説します。
骨軟骨異形成とは
骨軟骨異形成症(osteochondrodysplasia)とは、遺伝子の変異により骨や軟骨が十分に成長・発達しない病気のことです。
例えば折れ耳や短足、鼻ペチャの猫種です。これらの特徴は骨軟骨異形成によるものですが、見た目の可愛さやユニークさによって標準(スタンダード)と定められ、どんどん繁殖されています。
人間のエゴによって生まれたもの
骨軟骨異形成が作られた背景
スコティッシュフォールドの折れ耳やマンチカンの短足などの骨軟骨異形成の発生は、もともとは偶然の遺伝子突然変異によるものです。
例えばスコティッシュフォールドの場合、1960年代に遺伝子の突然変異により折れ耳のスコティッシュフォールドが誕生し、それが「ユニークでかわいい」と評価されて繁殖が始まりました。その結果、健康上のリスクが知られる前に人気が急増しました。
実際に、スコティッシュフォールドやマンチカンは日本で人気が非常に高く、飼育頭数ランキングで何年にも渡って上位に位置しています。
このように折れ耳や短足、鼻ペチャ、カールした耳、無毛など「特徴的なかわいらしさ、ユニークさ」を持つ猫種の需要は高く、繁殖を追求した育種が優先される一方で、健康問題が二の次にされてきた歴史があります。
骨軟骨異形成を防ぐためには?
外見的特徴は可愛くて人気ですが、外見的特徴だけを追求せず、遺伝的多様性を確保し、健康を優先した育種を行うことが重要です。スコティッシュフォールドの場合、折れ耳の猫同士を交配(ダブルフォールド)しないなどのルールを厳守すべきといえます。
骨軟骨異形成は、人間が外見的特徴を求める過程で選択育種によって広まった疾患です。これは確かに人間のエゴが関与している部分が大きいと言えます。しかし、遺伝的疾患の背景や危険性を学び、猫の健康を第一に考える選択をしていくことで、こうした問題を軽減することができます。飼い主やブリーダーひとりひとりが責任を持ち、命を大切にする視点を持つことが、この問題解決への第一歩です。
ブリーダー直販サイト「ペットの実家」では、スコティッシュフォールドの折れ耳という外見の評価ではなく、内面的な人懐っこい性格が評価される日がくることを願って、折れ耳のスコティッシュフォールドの販売しないことを発表しています。
※この記事では、スコティッシュフォールドやマンチカンなどを飼育されている方を非難する意図はありません。
骨軟骨異形成の背景や危険性、現状を発信するものであり、遺伝性疾患と向き合う覚悟を持ってお迎えを決意して頂きたく、ご参照いただければ幸いです。
参考:13年人気No1折れ耳スコティッシュフォールドを販売停止に【ペットの実家】|PRTIMES
参考:【病気】陣痛が分からないほどの痛みを抱えるスコティッシュフォールド。骨軟骨異形成症とは|ペットの実家@優良ブリーダー直販
骨軟骨異形成になりやすい猫種
代表的はスコティッシュフォールド
とくに猫種の中で最も代表的な骨軟骨異形成を持つのが、スコティッシュフォールドです。
アニコム損保の家庭どうぶつ白書2014によると、筋骨格系疾患の発症において、スコティッシュフォールドは他の猫種の約3倍も多いことが分かりました。
折れ耳を作り出すのは、骨軟骨異形成を引き起こす遺伝子「FD遺伝子」によるものです。FD遺伝子は耳の軟骨を柔らかくし、折れ曲がる形状を引き起こします。耳の軟骨が十分に発達しないということは、他の軟骨や関節、骨も異常や成長不良を抱えている可能性があります。
とくに問題となるのは、折れ耳のスコティッシュフォールド同士の交配(ダブルフォールド)です。折れ耳同士の交配では、子猫が両親からFD遺伝子を受け継ぐ可能性が高くなり、骨軟骨異形成症の症状がより重篤化する傾向があります。そのため、スコティッシュフォールドの繁殖には折れ耳と立ち耳の交配が推奨されています。
とはいえ、折れ耳と立ち耳の交配でも折れ耳の子猫は生まれます。
このようにスコティッシュフォールドは骨の異常に関する健康リスクがあるため、猫種の登録における基準として健康を重視している公認団体CFAでは、いまだにスコティッシュフォールドを公認していません。
スコ座りも骨軟骨異形成によるもの
スコティッシュフォールド特有の座り方である「スコ座り」。後ろ足を前方に伸ばし、背を地面に近づけた独特な座り方で、その姿が可愛いと広く話題になっています。
このスコ座りですが、関節や骨の圧迫や負担を軽減するためにしている可能性があります。
単にリラックスしてスコ座りをしている場合もありますが、スコ座りが頻繁にみられる場合は関節に痛みや不快感があるのかもしれません。
参考:スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成に対して外科治療・放射線治療・内科治療の併用療法を行った1例|麻布大学附属動物病院
骨軟骨異形成になりやすい猫種
スコティッシュフォールド以外にも、下記の猫種が骨軟骨異形成になりやすい傾向にあります。
猫種 | 誕生 | 骨軟骨異形成 |
---|---|---|
スコティッシュフォールド | 突然変異 | 折れ耳 |
マンチカン | 突然変異 | 短足 |
アメリカンカール | 突然変異 | カールした耳 |
ペルシャ | 自然発生 | 鼻ペチャ |
キンカロー | マンチカン × アメリカンカール | 短足 カールした耳 |
ミヌエット | マンチカン × ペルシャ | 短足 |
バンビーノ | マンチカン × スフィンクス | 短足 無毛 |
ヒマラヤン | ペルシャ × シャム | 鼻ペチャ |
骨軟骨異形成の症状
- 初期段階:運動のぎこちなさや軽度の痛み
- 中期段階:関節の腫れ、硬直、可動域の制限が目立つ
- 進行段階:骨瘤が形成され、関節変形が進み、強い痛みや歩行困難が生じる
骨軟骨異形成は、初期段階では軽微ですが、病気が進行するにつれて症状が顕著になります。
症状が進行して関節に過剰な負担がかかると、体が関節を安定させるために「骨瘤(こつりゅう)」を形成します。
骨瘤は異常が起きた関節を補強しようとする体の自然な反応ですが、骨瘤が成長すると関節の可動域が制限され、強い痛みや運動障害が悪化することがあります。
骨軟骨異形成の治療法
骨軟骨異形成は遺伝的疾患であるため、生まれ持った体型を変えることはできません。そのため根本的な治療法はありませんが、症状を緩和し、生活の質を向上させるための治療が行われます。
関節炎や痛みを軽減する抗炎症薬やサプリメントが処方されたり、関節の可動性を維持しつつ負担をかけすぎない低負荷の運動やマッサージなどが行われます。
強い痛みが生じている場合や骨瘤が形成されている場合は、外科手術による除去が行われることもあります。
飼い主ができることは?
そうですね。愛猫の健康状態に気を配り、早期に対策することで生活の質を向上させることができます。
獣医師さんや専門家のアドバイスを受けながら、快適な生活を支えるために特別な配慮が重要です。
定期的な健康診断
定期的な健康診断を行うことで関節や骨の異常を早期に発見し、症状が進行しないように対策をすることができます。
猫の動きや歩き方を観察し、足を引きずる、動きがぎこちないなどの違和感があれば早めに動物病院で相談しましょう。
生活環境を整える
関節に負担をかけないよう、過度な上下運動やジャンプは控えさせなければなりません。スロープや階段を設置して移動を楽にしてあげましょう。
またフローリングや滑りやすい床の場合、滑り止めマットやカーペットを敷くことで猫が安定して歩けるようになります。柔らかくて体圧を分散できるマットやクッションもおすすめです。
また、寒い環境では関節が硬直しやすいため、冬場は暖かい環境を作りましょう。電気マットやヒーターで適度な暖房を用意してあげてください。
低負荷の運動
関節に負担をかけない、走り回らないような軽めの遊びや運動を心掛けましょう。猫がストレスを感じず、健康を維持できる程度の活動量を維持します。
適切な体重管理
体重が増えると関節や骨への負担が増加するため、バランスの良い食事を心がけて適切な体重を維持することが重要です。
とくに症状がある程度進行している場合は運動しなくなるためエネルギー消費量が減り、キャットフードに記載の適正給与量でも多いかもしれません。必ず獣医師さんと相談し、カロリーコントロールができるキャットフードを選びましょう。
ストレスを感じさせない
骨軟骨異形成によって痛みや不快感がある場合、猫はストレスを感じやすくなります。静かで落ち着いた環境を整えるようにしましょう。猫が動きたがらない場合は無理に運動させず、猫の自然な行動を尊重します。
まとめ
- 折れ耳や短足、鼻ペチャ、カールした耳、無毛は骨軟骨異形成によるもの
- 骨軟骨異形成は外見的特徴がある一方、健康リスクがある
- とくにスコティッシュフォールドは注意が必要
- 早期に対策することで症状を緩和でき、生活の質が向上する