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トキソプラズマ症(Toxoplasmosis)とは
猫の寄生虫
トキソプラズマ症とは、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)が寄生することで発症する人獣共通感染症です。「猫の寄生虫」と言われるほど猫にとってはメジャーな寄生虫として知られています。
猫がトキソプラズマに感染してもほとんどが無症状で、発症したとしても数日の発熱とリンパ節の膨張くらいで治まります。
トキソプラズマの猫からヒトへの感染経路
トキソプラズマの感染経路は、猫や他の動物の糞便中に排泄されたトキソプラズマの経口感染、ゴミ箱や汚染水、また生の食肉からの感染が挙げられます。
猫を飼っている人のトキソプラズマの感染率は高いと言えますが、猫や動物からの経口感染よりも、トキソプラズマに感染した生肉を食べたことが原因である方が多いと言われています。
全人類の3分の1以上が感染
世界全人類の3分の1以上(30~50%)がトキソプラズマに感染しています。
特に生肉を食す欧米での感染率は非常に高く、ドイツやオランダ、フランスではなんと80%以上がトキソプラズマに感染しています。
日本を含め、アジアではトキソプラズマの感染率は低く、日本人の感染率は10%前後となっています。
トキソプラズマ症の症状
妊婦(胎児)と免疫不全者は危険
健康的な一般成人に感染した場合、無症状であることがほとんどで、免疫系の働きによって押さえ込まれるため、生活に支障が出ることはありません。
しかし、妊婦が初めてトキソプラズマに感染すると、原虫が胎盤に移行し、流産や死産、胎児に重大な精神遅滞、視力障害、脳性麻痺、水頭症などの重篤な症状が現れる場合があります。
トキソプラズマは一度感染すると生涯にわたって人の体内に潜伏感染しますが、過去に感染したことがある女性が妊娠しても、胎児にトキソプラズマによる障害が起こることは通常ありません。このため、猫を飼っている方は、妊娠前にトキソプラズマ抗体化を測定しておくことが大切です。
また、HIV感染者など、免疫不全者に感染すると重篤な症状を引き起こすため、十分に注意しなければなりません。
トキソプラズマはネコ科動物の体内でしか有性生殖できない
トキソプラズマとは、アピコンプレックス門コクシジウム綱に属する寄生性原生生物(原虫)です。体長は4~7μmほどで、動物の腸管壁や血液中に入り込めるほど非常に小さな単細胞生物です。
トキソプラズマは、ネコ科の動物以外にも様々な動物に寄生しますが、有性生殖はネコ科の動物の腸内でしか行うことができません。
このため種を殖やす目的を考えれば、人やネズミなど猫以外の動物はただの腰掛であり(中間宿主)、最も望ましい環境は有性生殖が可能なネコ科の動物(終宿主)の体内ということになります。
トキソプラズマはヒトや動物の行動や性格を操っている可能性がある
画像引用元:宿主を支配する微生物|帯広畜産大学原虫病研究センター生体防御学研究分野
トキソプラズマは、ヒトを含む哺乳類と鳥類、ほぼすべての恒温動物に感染します。なかでもトキソプラズマの生存・繁殖にとって重要なのはネコへの感染です。トキソプラズマは複雑な増殖サイクルによって子孫を増やしていきます。その繁殖サイクルを完成させるには、ネコへの感染が不可欠です。そのためトキソプラズマは、ネコの捕食対象であるネズミの行動を変え、自身が生存・繁殖しやすくしていると考えられています。これを『トキソプラズマの宿主ハイジャック機構』といいます
近年、トキソプラズマがヒトに感染すると、ヒトの脳を支配し性格や行動を左右する可能性があるという研究が相次いで報告されています。
米国コロラド大学などによると、トキソプラズマの感染者は、非感染と比較すると、失敗やリスクに対し恐怖心を感じにくく、起業志向が強い傾向があります。また、トキソプラズマの感染率が高い国では、サッカー強豪国が多く、攻撃的なプレースタイルである傾向が高いことが示唆されています。
また、感染者は交通事故の発生率や自殺率が高く、統合失調症やアルツハイマー場などの神経・精神疾患の発症率も高いことも分かってきています。
トキソプラズマは終宿主の猫に移動するために脳を操作している?
これは、トキソプラズマはなんとかしてネコ科の動物の体へ移動するための手段ではないかという説があります。
トキソプラズマに感染したマウスは、脳組織に過剰な炎症反応と神経機能の低下が見られ、また猫への警戒心が弱まることが報告されています。空間記憶や学習能力が低下し、不安や恐怖に対して鈍感になることが実験で明らかとなりました。
警戒心や反応が鈍くなれば、猫に捕食されやすくなります。また、元気に動き回るネズミよりも、弱って動きの鈍いネズミの方が猫に捕らえられやすくなるのは当然のことでしょう。
猫に捕食されるよう、トキソプラズマにネズミや私たち人間の脳が支配され、死へ導かれているのかもしれません。
トキソプラズマ症の感染予防方法
画像引用元:食品安全関係情報詳細|食品安全委員会
生肉は67度以上で1~2分以上加熱する
生の食肉からが最も高い感染経路となっているので、生肉はしっかりと熱を通すことが大切です。
トキソプラズマが寄生する肉でも、67度以上で1~2分加熱するとトキソプラズマは死滅します。または-20度で8時間以上冷凍すればトキソプラズマは死滅します。
野外で湖や川の水を飲まない
水道水は問題ありませんが、トキソプラズマは、沪過されていない湖や川の水にも含まれているため、安易に野外で未沪過の水は口にしないようにしましょう。
猫の糞便は手袋を着用して処理する
猫からの感染を予防する場合、トキソプラズマは猫の糞便に含まれるため、猫のトイレ掃除の時は手袋を着用しましょう。
ただ猫は毛繕いをするため、自分のお尻を舐めてきれいにした際に、口や手にトキソプラズマが付着する可能性があります。すると、手や口などで部屋のどこかにトキソプラズマが付着してしまうので、トキソプラズマに感染している猫と暮らす場合、完全に予防することは難しいかもしれません。
まとめ
- トキソプラズマは多くの猫やヒトが感染している
- 感染しても無症状であることがほとんど
- 妊婦や免疫不全者は細心の注意が必要
- トキソプラズマに感染すると神経・精神疾患の発症率、事故率や自殺率が高くなる
- 生肉はきちんと加熱するとトキソプラズマは死滅する