猫と暮らしていると、「腎臓病」という言葉を耳にする機会は少なくありません。
猫の慢性腎臓病(CKD)は高齢猫に多く見られる疾患であり、「もし腎臓病になったら」と不安を感じる飼い主さんも多いと思います。
近年では、AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)というタンパク質に基づく新しい治療が注目されており、SNSなどでも「猫の腎臓病に新薬があるらしい」といった情報を目にする機会が増えています。
この記事では、新薬の現状についてできるだけわかりやすくお伝えします。
猫の腎臓病に「治る薬」はあるのか
まず大切な前提としてお伝えしたいのは、現時点では、猫の慢性腎臓病を完全に治す薬はまだありません。
これは少し残念に感じるかもしれませんが、現在の医療では「治す」というよりも、
・進行をゆるやかにする
・体への負担を減らす
といった形で、長く穏やかに付き合っていく病気とされています。
話題の「AIM新薬」とは
最近よく話題にのぼるのが、「AIM」という物質を利用した新しい治療です。
AIMとはどんなもの?
AIMは血中タンパク質の一種で、体の中にもともとあるタンパク質のひとつです。これは、体内の老廃物の処理や炎症反応に関わっていると考えられています。
猫では、AIMというタンパク質が血液中で別のタンパク質(IgM)と強く結びついたままになりやすく、必要な場面で十分に働きにくいと考えられています。
その結果、本来は腎臓の尿細管で行われる老廃物の処理がうまく進まず、腎機能の低下に関わっている可能性が指摘されています。
AIM新薬はどのように腎臓に働くと考えられているのか
上記でも解説したとおり、猫ではAIMがIgMと結合した状態から十分に働きにくく、尿細管での老廃物処理が滞りやすい特性が指摘されています。
AIM新薬では、こうした状態を補うために外部からAIMを投与することで、腎臓内での老廃物の除去を促し、組織への負担を軽減することが期待されています。
具体的には、AIMは尿細管内で凝集した細胞デブリに結合し、その除去を促進することが報告されています。このように、尿細管内にたまる細胞由来の老廃物やデブリの排出が改善されることで、腎機能の悪化を抑制できる可能性が研究で示されています。
ただし、これらの作用はあくまで研究段階で示されているメカニズムであり、すべての症例で同様の効果が得られるかどうかは、今後の審査や臨床データの蓄積を待つ必要があります。
2026年時点の正確な状況
ここはとても重要なポイントです。
2026年4月時点で、AIMを用いた猫の腎臓病治療薬は、日本において製造販売承認申請が行われた段階にあります。つまり、現時点ではまだ承認されておらず、動物病院で一般的に使用できる薬ではありません。
一方で、近年の研究では、組換えAIMの投与によって腎機能指標の変化や生存期間への影響などが検討されています。その中には、腎機能の悪化を抑える可能性や、生存期間の延長を示唆する結果も報告されています。
ただし、ここで押さえておきたいのは、これらはあくまで臨床試験段階で得られた知見であり、日常診療において確立された治療とは位置づけられていないという点です。
「もう使える」と言われる理由
2026年4月、AIMを基盤とした猫用医薬品「FeliAIM」は農林水産省に対して製造販売承認申請が提出され、広く注目を集めました。
新薬の話題はどうしても期待が先に広がりやすく、「もうすぐ使える」「画期的な薬ができた」といった表現が独り歩きしてしまうことがあります。
実際の日本の動物用医薬品は、有効性や安全性、品質について審査を受け、承認されて初めて臨床使用が可能になります。
そのため、実際に使えるようになる時期については現時点ではっきりとは決まっていません。
今できる治療はどんなもの?
新しい治療の話題に目が向きがちですが、AIMのような新規治療とは別に、現在の慢性腎臓病管理には確立された枠組みがあります。
食事療法が中心となる
腎臓病の管理では、療法食が大きな役割を担っています。
リンの量やタンパク質のバランスを調整することで、腎臓への負担を軽くし、進行をゆるやかにすることが期待されています。
体のバランスを整える治療
高リン血症は慢性腎臓病の進行因子のひとつとされており、食事療法やリン吸着剤による管理が重要とされています。
そのうえで、状態に応じてカリウム異常などの電解質バランスの乱れがみられる場合には、補正が行われることもあります。
補液(点滴)
脱水は腎血流の低下につながり、腎臓への負担を増やす要因となります。
そのため、状態に応じて補液(点滴)を行い、体内の水分バランスや循環を維持することが重要とされています。
全身の状態をみながら管理する
腎臓病は腎臓だけにとどまらず、全身の状態に影響を及ぼす疾患です。
そのため、血圧や尿の状態(蛋白尿の有無)などを含め、全身を評価しながら管理していくことが重要とされています。
特に、高血圧や蛋白尿は予後に関与する因子とされています。そのため、状態に応じて、血圧を下げることで腎臓への負担を軽減し、蛋白尿の改善にも関与するACE阻害薬やARBなどの薬剤が使用されることがあります。
飼い主として知っておきたいこと
猫の腎臓病は確かに完治が難しい疾患ですが、「治らない=何もできない」で病気ではありません。
- 早期発見
- 適切な食事管理
- 継続的なモニタリング
によって、長期的に安定した生活を維持できるケースも多くあります。
そして、AIM研究のように「病態の根本に近い部分」にアプローチする治療が現実的な段階まで進んでいることも事実です。
まとめ
猫の腎臓病に対するAIM新薬は、2026年時点では承認申請の段階にあり、実際にはまだ使える薬ではありません。
一方で、明確な科学的仮説に基づき研究が進められており、臨床試験の実施を経て承認プロセスに入っている点は、これまでにない進展といえます。
今後の治療選択肢の広がりにつながる可能性があることは、飼い主にとってひとつの前向きな要素と捉えられます。
今できる治療を大切にしながら、こうした医療の進歩を正しく理解していくことが重要です。
参考:AIM猫薬「FeliAIM」の製造販売承認申請に関するお知らせ
参考:A clinical impact of apoptosis inhibitor of macrophage on feline chronic kidney disease
参考:ネコに腎不全が多発する原因を究明―ネコではAIMが急性腎不全治癒に機能していない
参考:Survival of cats with naturally occurring chronic renal failure: effect of dietary management
参考:猫の慢性腎臓病の治療に対する推奨事項






































































































































































