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猫のアルツハイマー病(alzheimer’s disease)について
猫アルツハイマー病とは?
猫にも人間と同様に、老化に伴う認知機能の低下が起こることが知られています。この状態は「猫版アルツハイマー病」「猫認知症」と表現されることがありますが、獣医学的な正式名称では「認知機能不全症候群(Cognitive Dysfunction Syndrome, CDS)」といいます。
猫アルツハイマー病は高齢の猫にみられる神経変性疾患の一種で、脳の老化が原因となって認知機能や行動に異常があらわれる状態です。人間のアルツハイマー病と猫アルツハイマー病には共通点が多いものの、猫特有の症状や進行速度が異なる点があり、正確な診断や管理が重要です。
認知症との違いは?
認知症はさまざまな疾患によって引き起こされる症状の総称であり、アルツハイマー病はその原因の1つです。認知症全体の50~70%がアルツハイマー病によるものであるため、この2つの言葉が混同されることがあります。
猫のアルツハイマー病はあまり知られていない
人や犬がアルツハイマー病になるのはよく知られていますが、猫もアルツハイマー病になるというのはあまり周知されていません。
研究によると、11~14歳の猫の28%、15~21歳の猫の約50%はアルツハイマー病という報告があります。それほど高い発症率なのに、なぜ猫のアルツハイマー病はあまり知られていないのでしょうか?
それは、アルツハイマー病だと気づきにくく、判断が難しいためと考えられます。
寿命の延びと認知症の認知不足 | 猫の平均寿命が伸びたのは近年のことで、高齢猫に特有の疾患が注目されるようになったのも最近であるため |
症状の曖昧さ | 症状が加齢による一般的な行動変化(夜鳴きや食欲減退など)と似ており、見過ごされがち |
研究の進展不足 | 人間や犬のアルツハイマー病に比べ、猫に関する研究が遅れているため、診断基準や治療法が確立していない |
飼い主さんの認識不足 | 病気として認識されにくく、加齢の一環と捉えられることが多い |
診断の難しさ | 明確な診断が難しく、獣医師でさえ判断に苦慮する場合はがある |
猫アルツハイマー病の原因とメカニズム
猫認知症の主な原因は、脳の老化です。具体的には以下のようなプロセスが関与しています。
アミロイドβの蓄積
人間のアルツハイマー病と同様に、アミロイドβとよばれる異常タンパク質(老廃物)の蓄積が脳で確認される場合があります。アミロイドβは通常、体内で分解・排出されますが、老化に伴いこのプロセスが乱れ、異常なタンパク質が脳に蓄積します。
この蓄積物が神経細胞にダメージを与え、シナプス(神経間の情報伝達経路)を劣化させることで徐々に認知機能が低下します。
血流の低下
高齢猫では脳の血流量が減少し、脳細胞への酸素や栄養の供給が不足し、神経細胞の機能が低下します。酸素や栄養が十分に供給されなくなるため、神経細胞がダメージを受けやすくなります。
血流が悪くなるとアミロイドβの排出が妨げられ、蓄積が進行します。
活性酵素の増加
老化に伴い、細胞の代謝過程で発生する活性酵素の量が増加します。とくにミトコンドリアの機能が低下し、エネルギー産生時に活性酵素が多く発生します。また老化に伴って抗酸化物質も減少するので、活性酵素の除去が不十分になり、細胞ダメージが進行します。
この酸化ストレスも認知機能の低下に寄与すると考えられています。
遺伝的要因
人や犬のアルツハイマー病では遺伝的要因が深く研究されていますが、猫に関しては十分な遺伝子研究がまだ行われていません。
メインクーンやシャムなど一部の猫種で加齢に伴う認知機能低下のリスクが高いと報告されることもありますが、これがアルツハイマー病に直接関連しているかは未解明です。
猫認知症の症状
高齢猫における認知機能の変化を包括的に評価する方法として、DISHAアルゴリズムを使用します。もともとは犬の認知機能不全症候群の評価を目的に開発されましたが猫にも適用可能で、とくに方向感覚の喪失や睡眠パターンの変化が顕著になります。
- 自宅や慣れた場所で迷子になる
- 家具の裏や部屋の隅など、出られなくなる場所に入り込む
- 以前は慣れていた環境を理解できなくなる
- 飼い主や他のペットに対して無関心になる
- 無関心になる、過度に依存する、攻撃的になる
- 抱っこや触られることを嫌がる
- 社会的な行動が減少
- 昼夜逆転(昼間に過度に眠り、夜間に起きて活動)
- 夜中に鳴き声をあげたり、不安そうに動き回る
- 睡眠時間やパターンが不規則になる
- トイレの場所や方法を忘れる
- トイレ以外の場所で排泄する
- 排泄行動に変化がみられる
- 無目的に歩き回る、同じ場所を徘徊する
- 遊びや探索への興味を失う
- 活動量が減少、または増加(特定の動きを繰り返す)
- 食べ物に対する興味を失ったり、逆に過剰に食べたがる
猫アルツハイマー病の予防
猫アルツハイマー病を感知する薬やワクチンはありませんが、普段の食事や生活環境によって発症リスクを軽減し、進行を遅らせることができます。高齢期のケアを充実させることが、猫の生活の質(QOL)を向上させる鍵となります。
「猫はアルツハイマー病にならない」と思い込まない
猫のアルツハイマー病はあまり周知されていないため気づいたらアルツハイマー病だったというケースも少なくありません。
猫も人や犬のアルツハイマー病のように介護が必要になるケースもあるため、「猫もアルツハイマー病になる可能性がある」ときちんと認識することが重要となります。
猫が7歳以上の高齢期に入ったら「普通の老化」と見過ごさず、少しでも行動に変化がみられたら早めに獣医師に相談することをおすすめします。
栄養管理
キャットフード以外に、手作りごはんを与えるのもおすすめです。下記のような栄養素は脳機能や神経機能を向上させる効果があります。
- ビタミンE、ビタミンC、セレン:抗酸化作用を持つため、酸化ストレスを軽減
- DHAやEPAなどの不飽和脂肪酸:魚類に含まれる不飽和脂肪酸は脳の健康をサポート
- L-カルニチンやタウリン:神経機能を支える重要な栄養素
知的刺激
脳の活性化を目的として、知的刺激を与えてあげましょう。
- 遊び:おもちゃやトリックトレーニングを通じて、脳を刺激
- 環境の変化:キャットタワーや隠れ場所などの環境要素を追加し、探索や運動を促す
- 感覚刺激:猫が楽しめる香り(キャットニップやフェリウェイ)や音を取り入れる
運動習慣
定期的な運動は血流を改善し、脳の健康維持に役立ちます。無理をしない程度に、お家の中で簡単な遊びや追いかけっこで運動量を確保しましょう。
ストレスの軽減
食事や遊び、飼い主さんとのコミュニケーションを決まった時間に行うことで、家の中の環境を一定に保ち、ストレスを最小限に抑えます。大きな環境変化は高齢猫にとって大きなストレスとなります。
まとめ
- 猫のアルツハイマー病はあまり知られていない
- アミロイドβの蓄積や活性酵素の増加などが原因となる
- アルツハイマー病になると方向感覚の喪失や睡眠パターンに変化があらわれる
- 予防をすることで発症リスクの軽減や進行を遅らせることができる