

進行性網膜萎縮症とは?
視力が落ちていく遺伝性疾患
猫の進行性網膜萎縮症(progressive retinal atrophy:PRA)とは、眼球の内側の網膜が徐々に萎縮して劣化していく病気です。
「遺伝性網膜変性症」や「びまん性網膜変性症」ともよばれ、時間が経つにつれて症状が悪化していき、最終的には視覚を失う恐れがあります。
進行性網膜萎縮症は犬でよく知られる病気ですが、猫でも発症することが確認されています。
発症は早くて生後6ヵ月
進行性網膜萎縮症の発症は年齢や遺伝的要因によって異なりますが、多くの場合生後6ヵ月~2歳に症状があらわれることがあります。この場合は遺伝性が強く、早期に進行がみられます。
一部の猫では、さらに遅い時期(4~5歳以降)に発症することもあります。この場合は初期症状が気付きにくく、進行が遅い傾向にあります。
進行性網膜萎縮症にかかりやすい猫種
進行性網膜萎縮症はすべての猫種で発症する可能性がありますが、とくに下記の猫種で発症リスクが高いとされています。
猫種 | 誕生 | 原因 |
---|---|---|
アビシニアン![]() | ・自然発生 | 発生率がとくに高く、若年性に発症しやすい |
ソマリ![]() | ・突然変異 | アビシニアンと密接な関係があるため、発症しやすい |
シャム![]() | ・自然発生 | 発症を引き起こす変異遺伝子を持つ割合が比較的高い |
ペルシャ![]() | ・自然発生 ・交配 | 発症のリスクが報告されている |
バーミーズ![]() | ・自然発生 ・交配 | 発症のリスクが報告されている |
バーマン![]() | ・自然発生 ・交配 | 発症のリスクが報告されている |
進行性網膜萎縮症の原因
遺伝子の異常
進行性網膜萎縮症の原因は、特定の遺伝子の異常によるものとされています。
多くの場合、進行性網膜萎縮症は劣性遺伝として受け継がれます。つまり、両親ともに異常な遺伝子を持っている場合に発症するリスクが高まります。
タウリン不足
今ほどキャットフードの改良や栄養が十分ではなかったころ、猫の心筋症が多発していました。1987年、心筋症の発症はタウリン不足によるものだと判明し、キャットフードにタウリンが配合されることが必須となりました。
それにより心筋症とともに進行性網膜萎縮症の発症も減少したため、現在では猫の発症はほとんどみられません。
進行性網膜萎縮症の症状
初期症状
初期段階では、暗い場所や夜間での視覚が弱くなる「夜盲症」が起こります。暗い場所に行きたがらなくなったり、夜は動かなくなるようになります。視覚障害により、思い通りの行動ができなくなることで不安やストレスを感じやすくなります。
しかし、猫は視覚以外にも聴覚や嗅覚が非常に優れているため、夜盲症が起きていても異変に気付きにくい傾向があります。
中期症状
夜盲症が悪化すると、昼間の視覚にも影響が出始めます。
- 怖がりになる
- おもちゃへの興味が無くなる
- 家具や物に頻繁にぶつかる
- 慎重にゆっくり動くようになる
- 動きが消極的になる
- 階段や段差につまづく
などの行動がみられます。
末期症状
症状が進行して末期段階になると、網膜の機能がほぼ失われ、完全な失明に至る場合も少なくありません。この段階では瞳孔が開きっぱなしになっていたり、眩しくても瞬きをしないようになり、光に対する反応が鈍くなります。
視覚を失った猫は環境の変化に敏感になり、慣れない場所で不安やストレスを示す行動が増えます。
進行性網膜萎縮症の治療法
残念ながら、進行性網膜萎縮症を根本的に治療する方法は現時点では存在しません。症状が初期段階であればタウリンを補給することで進行を抑えることができるかもしれませんが、一度萎縮した網膜が復元することは不可能です。
そのため、予防が非常に重要となり、症状の緩和や生活の質を向上させることが治療の目的となります。
進行性網膜萎縮症の予防策
進行性網膜萎縮症の発症は遺伝性であるため完全に防ぐことは難しいですが、予防によって症状の進行を遅らせることはできます。
良質なキャットフードを与える
猫がタウリン不足にならないよう、良質なキャットフードを与えましょう。
犬と一緒に暮らしているご家庭では、「猫がドッグフードを盗み食いして満腹でキャットフードを食べない…」なんてこともあります。その状態が日常的・長期的となった場合、猫が摂取すべき栄養素(とくにタウリン)の不足となって、進行性網膜萎縮症の発症のリスクが高まります。
模様替えをしない
猫は視力の低下や失明になったとしても、部屋の構造や家具の配置、自分が通る道などを記憶しています。頻繁に模様替えをしたり、猫がよく通る道に物を置かないようにしましょう。
まとめ
- 進行性網膜萎縮症はアビシニアンやペルシャがかかりやすい
- 遺伝性疾患であるが、タウリン不足の可能性もある
- 暗い場所に行かなくなり、怖がるようになる
- 一度萎縮した網膜は完治が難しい