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夏になると、蚊対策として蚊取り線香を使用するご家庭も多いでしょう。
結論から言うと、
と言えます。
この記事では、蚊取り線香に含まれる成分の危険性や代替策、蚊取り線香の購入のポイントなどを解説します。
愛猫の健康を守りながら、快適な夏を過ごすための参考にしてください。
猫にとって蚊取り線香が危険とされる理由
蚊取り線香の煙が充満する空間に猫を長時間置くことは、安全とは言い切れません。
その主な理由は、蚊取り線香に含まれる「ピレスロイド」や、煙自体が猫にとって刺激となる可能性があるためです。
ピレスロイド系化合物とは
蚊取り線香や虫よけスプレーなどの製品に使われている殺虫成分の多くは、「ピレスロイド」と呼ばれる化合物です。この殺虫成分は除虫菊(シロバナムシヨケギク)に含まれる天然の殺虫成分「ピレトリン」をもとに化学的に合成されたもので、昆虫の神経を麻痺させることで駆除効果を発揮します。
人や犬には比較的安全とされていますが、猫は体内に取り込まれた化学物質を無害な形に変換・排出する代謝酵素「グルクロニルトランスフェラーゼ」の働きが弱いため、体内に蓄積しやすいという特徴があります。とくにペルメトリンなどのピレスロイド系化合物は、猫に対して強い毒性を示すことが知られています。
蚊取り線香を使用することで高濃度の吸入が続くと、震え・ふらつき・痙攣・呼吸困難などの重篤な中毒症状を引き起こす可能性があります。そのため、猫のいる環境では使用方法に十分な配慮が求められます。
また、MSDマニュアル家庭版においても、ピレスロイド系殺虫剤が猫に対して毒性を持つことが記載されています。
引用元画像:殺虫剤中毒|MSDマニュアル家庭版
参考:Feline permethrin toxicity: retrospective study of 42 cases
煙による刺激もリスクに
蚊取り線香の煙には、微細な粒子や臭気成分が含まれます。これが猫の呼吸器系を刺激することで鼻水や咳、くしゃみ、目やにといった軽度の症状から、喘息や慢性的な呼吸器疾患の悪化などにつながる可能性もあります。
とくに子猫や高齢猫、持病のある猫は影響を受けやすいため、より慎重な対応が求められます。
火傷や火事になる恐れ
猫が蚊取り線香に近づくと火傷や怪我を負う恐れがあります。
好奇心旺盛な猫は渦巻き状の線香に興味を持って前足で触れたり、飛び乗った拍子に倒したりすることもあります。高温の灰や線香本体に触れれば、肉球や被毛が火傷をしてしまうこともあります。
また、倒れた蚊取り線香が布製品に引火すれば火災のリスクもあるため、猫のいる空間での使用には十分な注意が必要です。
電気式やリキッドタイプなら安全?
蚊取り線香と違って電気式の蚊取り器は煙が出ないため、「猫に優しい」「猫がいる部屋でも大丈夫」と思われがちですが、成分そのものはピレスロイド系であることが多いため、猫にとってはリスクが変わりません。
とくに電気式リキッドタイプは24時間連続使用されることも多く、成分の揮発が長時間続く点がリスクとなります。
成分表を確認!この成分は猫にとって危険
猫にとって危険な成分は?
製品によっては、パッケージに「無煙なので安全」「ペット用」と書かれていても、実際に成分表を見るとピレスロイドなど危険成分が記載されているものがあります。
下表は、蚊取り線香の成分表に記載される成分において、猫との生活環境では使用注意、または避けるべき成分です。
蚊取り線香の購入の前には必ず成分表を確認し、危険な成分が含まれていない製品を選びましょう。
危険な成分 | 特徴 |
---|---|
ピレトリン | 除虫菊由来の天然殺虫成分。猫は分解できず中毒リスクあり。 |
アレスリン | 合成ピレスロイド系成分。神経毒性があり、吸入・経皮吸収で症状を起こす恐れ。 |
プラレトリン | ピレスロイド系。電気式蚊取りにも使われる。猫には代謝できない。 |
メトフルトリン | 強力な揮発性ピレスロイド。電気式リキッド型に多い。猫の神経に作用。 |
フタルスリン | 合成ピレスロイド。蚊取り線香やスプレーに使用される。 |
トランスフルトリン | 高い揮発性を持つピレスロイド。猫に長時間曝露すると危険。 |
どんな蚊取り線香を買えばいい?
蚊取り線香の成分の中には、猫にとって危険性がない成分もあります。ただし、「猫に安全」と断言できるものはほぼなく、“比較的”安全な傾向にある成分です。
成分 | メリット | 注意点 |
---|---|---|
除虫菊末 | ・除虫菊の花を乾燥・粉砕した粉末 | ・ピレトリンを微量含む ・成分濃度次第で注意 |
天然除虫菊 | ・天然の殺虫効果を持つ除虫菊の総称的な呼び方 ・天然成分で化学合成物質を避けられる ・一定の殺虫効果がある | ・ピレトリンを含む ・猫はピレトリンを代謝できず中毒リスクあり ・吸入・経皮吸収でも危険 |
炭粉・木粉 (線香のベース材) | ・燃焼時に安定しやすく、煙の立ちが穏やか ・無毒性であることが多い | ・煙そのものが猫の呼吸器に刺激を与える可能性あり ・アレルギーや喘息がある猫は要注意 |
天然由来デンプン | ・自然素材で燃焼後の残留物が少ない ・比較的無害な素材 | ・安全性は高めだが、燃焼時の煙や香料との組み合わせ次第で呼吸器刺激が生じる可能性がある |
蚊取り線香を使わない蚊対策

猫の健康を最優先に考えるなら、蚊取り線香や化学薬剤に頼らずに蚊を防ぐ方法を選ぶのが理想です。
猫にも安全性が高いとされる蚊対策を紹介します。
網戸の補強や窓の二重ロック
蚊の侵入を防ぐ最も確実な方法は、物理的な遮断です。
網戸の破れや隙間をチェックし、必要であれば補修用の網やパッキンで密閉性を高めましょう。窓の開閉による隙間からも蚊は侵入するため、ロック機能付きの網戸や二重窓の設置も効果的です。
猫が網戸によじ登る癖がある場合は、ペット用の破れにくい網戸に交換することで、蚊の侵入と猫の脱走の両方を防げます。
この方法であれば薬剤を使わないため、猫の健康への影響も心配ありません。
扇風機やサーキュレーターの活用
蚊は風に弱いため、扇風機やサーキュレーターを使って空気を循環させるだけでも蚊の滞在を防ぐ効果があります。とくに窓際や部屋の入口付近に風の流れをつくることで、蚊の侵入を抑えることが可能です。
機械音や風を嫌がる猫もいますが、風向きや設置位置を工夫することで快適な環境が保てます。
この方法であれば薬剤を使用しないため、猫の呼吸器や皮膚への刺激の心配がなく、安心して日常的に使用できます。
猫に安全なハーブの活用(ただし注意が必要)
レモングラスやゼラニウムなど蚊が嫌う香りを持つ植物を窓際に置くと、虫よけ効果が期待できます。
ただし、ハーブ類には猫にとって毒性を持つものもあるため、安全性の高い種類を選び、猫が直接触れたり食べたりしないよう注意が必要です。とくに精油(アロマオイル)は猫にとって危険なので使用は避けてください。
植物を活用する場合は観賞用として管理し、猫が立ち入らない場所に設置するようにしましょう。
どうしても蚊取り線香を使いたい場合
どうしても蚊取り線香や蚊取り器を使用する必要がある場合は、以下のような工夫をすることでリスクを最小限に抑えつつ蚊対策を行うことが可能です。
ただし、厳重な管理が必要です。
使用する部屋を分ける
最も簡単かつ効果的な方法が、「猫のいる部屋では蚊取り線香を使わない」というものです。
猫が普段過ごす部屋と蚊取り線香を焚く部屋を分けて、煙が猫のいる空間に入らないようにすることで、直接的な曝露を防ぐことができます。
換気をしっかり行う
煙がこもらないよう、使用中は窓を開けてしっかり換気を行いましょう。空気の流れがあれば、煙の滞留を防ぎ、濃度も下げることができます。
蚊取り線香の使用後、煙が完全に抜けるまでは猫をその部屋に入れないようにしましょう。
猫の体調に注意を払う
蚊取り線香を使用しているときやその直後に、猫が咳をしたり、目を細めていたり、呼吸が浅くなっていたりするようであれば、すぐに使用を中止してください。
また、そうした症状が続くようであれば、獣医師の診察を受けましょう。
まとめ
蚊取り線香は私たちにとって手軽な虫除けアイテムですが、猫にとっては思わぬリスクを伴うことがあります。とくにピレスロイド系の成分は猫の体に蓄積しやすく、煙による呼吸器への刺激も無視できません。
愛猫の健康と快適な夏の生活を守るために、今一度、蚊対策の方法を見直してみましょう。