猫の人獣共通感染症:パスツレラ症(Pasteurellosis)
パスツレラ症とは、健康な犬や猫の口の中に存在するパスツレラ属の常在菌(口腔内正常細菌)が、人間に感染することで引き起こされる人獣共通感染症です。
犬や猫から人へのPasteurella属菌の感染は、P.multocida、P.canis、P.stomatis、P.dagmatisの4菌種が起因となりますが、P.multocidaが犬猫からの起因菌の90%以上を占めているとされています。
P.multocida(グラム陰性通性嫌気性両端染色性小短桿菌)の猫の口腔内の常在率はほぼ100%とされ、犬の口腔内が75%なのに対し、猫の方が保有率が高くなっています。
また、猫は足をなめる習性がることから、猫の爪にも20~25%の確率でパスツレラ菌が存在します。
パスツレラ属の細菌は犬や猫にとって常在菌なので、感染しても害や症状はありません。
パスツレラ症の感染経路
多くは感染動物の咬傷・掻傷による経皮感染
パスツレラ症の感染経路は以下の3つに分けられます。
- 動物の咬傷・掻傷による経皮感染
- 経気道を主とする動物からの非外傷性感染
- 動物との接触歴が不明な感染症
上記の中でも、感染した動物から咬まれたりひっかかれたりして皮膚から細菌が侵入する経皮感染が多く、咬傷・掻傷によって犬の場合は20〜40%、猫の場合は60〜70%に感染が成立するとされています。
また、猫や犬以外にもウサギや牛、豚、鳥などの哺乳動物もパスツレラ菌を保有しています。
症状
局所化膿症
咬傷後に15分から24時間以内に咬傷部位に疼くような激痛と膨張の症状が現れ、また傷跡に異臭のある浸出液が見られます。
呼吸器感染症
基礎疾患のある高齢者がパスツレラ症に感染した場合、副鼻腔炎や気管支炎、肺炎、膿胸、肺膿瘍などの呼吸器系の感染症を引き起こすことがあります。
顔をなめられた際、パスツレラ菌を吸入してしまい、副鼻腔炎を発症したという例も報告されています。
全身感染症
糖尿病やアルコール性肝障害、またAIDS(後天性免疫不全症候群)などの基礎疾患のある人が感染した場合、腹膜炎や敗血症などを引き起こし重症化する傾向があります。
ですが、中には明らかな基礎疾患がない人でも軽い掻傷からパスツレラ症に感染し敗血症を発症した死亡例も報告されています。
健常人の敗血症による死亡率はなんと25%、4人に1人が亡くなってしまうと報告されています。
治療法
ペニシリン系抗菌薬・セフェム系抗菌薬
パスツレラ症に感染し、上記のような症状が出たら投薬による治療が一般的です。
- ペニシリン系抗菌薬
- セフェム系抗菌薬
パスツレラ症は1~2日間赤く腫れて、患部が炎症を起こすだけで自然治癒する場合も多いですが、上で説明したように重症化や死亡例も確認されているので、放置せず、病院を受診して治療することをおすすめします。
予防法
予防接種はない
パスツレラ症の予防接種はありません。このため、ひっかかれたり、咬まれないように気をつけること、また、なめられたら手を洗い、寝る場所を分ける(寝ている間は防げない)などえ対策します。
猫と暮らしていると、ひっかかれたり咬まれたりすることは日常で難しいかもしれませんが、基礎疾患のある方は感染すると命に関わる場合もあるので、注意しましょう。
まとめ
- 人獣共通感染症
- かまれたりひっかかれたりして感染
- 猫の保菌率はほぼ100%
- 咬傷部の痛みや膨張
- 基礎疾患がある場合、呼吸器感染症や全身感染症を引き起こす可能性がある