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キャットフードやペットフードでは、フード中に含まれる栄養素量を「保証分析値」で表していますよね。
でもそれってどうやって測定しているんですか?
キャットフード、特に総合栄養食は一定の栄養素を含む必要があるので、栄養分析によって測定されます。
成分値で必要な栄養素は、粗タンパク質、粗脂肪、粗繊維、粗灰分、水分の5つですが、それぞれに測定方法が異なります。
キャットフードの保証分析値
保証分析値はキャットフードに含まれる栄養成分値を表す重要な情報のひとつで、100g中何%その成分が含まれているかを表しています。
成分値の記載はペットフード安全法などの法律では義務化されていないので保証分析値がなくても罰則はありませんが、ペットフード公正取引協議会が定める「ペットフードの表示に関する公正競争規約」ではタンパク質、脂肪、繊維、灰分、水分の成分値の記載が必要と定められています。
また、総合栄養食と表記するには、公正競争規約が定める栄養基準に則り、そのキャットフードと水だけで栄養が満たせるようなレシピ設計が求められるので、ほとんどの企業やメーカーは自主的に成分値を商品やサイトで公開しています。
成分分析方法の決まり
成分表示には、保証分析値(%)の他、乾物換算や水分を除いた栄養成分表などの表記方法がありますが、公正競争規約では、成分の分析方法を「農林水産省消費・安全局長の定める飼料分析基準、農林水産消費安全技術センターの定める愛玩動物用飼料等の検査方法、又はこれに準ずる国際的検査基準による。」と定めているので、これに則った分析方法であれば問題はありません。
キャットフードの栄養分析は、測定する成分によってそれぞれ異なり、次で紹介するような分析方法で測定されています。
キャットフードのタンパク質成分分析
タンパク質分析の概要
タンパク質の成分分析では、ケルダール法か燃焼法(デュマ法)いずらかの方法で窒素を測定し、換算係数をかけてタンパク質量を求めます。
タンパク質には平均16%の窒素が含まれるため、換算係数は6.25(100/16=6.25)です。
係数には6.25を使うことがほとんどですが、乳製品の場合は窒素の割合が若干低いので係数に6.38を使うこともあります。
ケルダール法と燃焼法(デュマ法)どちらの方法も、タンパク質以外の窒素(キチンやキトサンなどの多糖)も測定されるので実際より多く評価されてしまう点に注意が必要です。
ケルダール法
ケルダール法は濃硫酸で加熱分解したフードをアンモニア態窒素(水中にアンモニウム塩として含まれる窒素)として吸収する方法です。強酸や強アルカリなど危険な試薬を使用するため、適切な設備が必要になります。
燃焼法(デュマ法)
燃焼法(デュマ法)はフードを超高温で完全燃焼させて窒素ガスとして回収する方法で、高純度の酸素ガスやヘリウムガスを用意する必要があります。
キャットフードの脂質成分分析
脂質分析の概要
脂質の分析では、ジエチルエーテル抽出法と酸分解ジエチルエーテル抽出法で測定します。どちらの方法も抽出された脂質を重量測定し、全体のフード量に対する比率計算から脂肪量を求めます。
ジエチルエーテル抽出法
エタノールの脱水縮合で合成されるジエチルエーテルという化合物を用いた抽出方法で、フードを円筒濾紙にとり、ジエチルエーテルを16時間加熱還流して脂質を抽出します。
酸分解ジエチルエーテル抽出法
フードに塩酸を加えて加熱分解し、抽出しやすくしやすい状態にしてジエチルエーテルに溶解・抽出する方法で、脂質の抽出が難しい試料に用いられます。
キャットフードの食物繊維成分分析
繊維分析の概要
粗繊維の分析では、フードを希硫酸・希アルカリ溶液で煮沸し、残った重量から灰分を指し引いた計算で求められます。
一方、粗繊維とは別に、食物繊維の定量法にはいくつか種類があり、食物繊維は方法を変えることで分子量の異なる食物繊維が求められます。一般的な方法として、食物繊維は一定濃度以上のエタノール水溶液では溶けずに沈殿物となるので、アミラーゼやプロアテーゼなどの酵素によってフードを分解して、78%エタノール沈殿物を回収した重量から求める方法があります。
キャットフードの灰分(ミネラル)分析
灰分分析の概要
灰分の分析では、フードを550~600度の電気炉で有機物を完全燃焼させる直接灰化法という方法を用いて測定します。
全体の灰分(ミネラル)量だけであれば上記の測定で終了ですが、カルシウム、マグネシウム、リン、ナトリウムなどより詳細な成分値を測定する場合には、さらにそこから分析対象のそれぞれの元素に合った試験溶液の作成し、分析対象の元素の種類や含有量に適した測定方法を選択していきます。
抽出・測定方法
フード中から有機物を除去した後、塩酸や硝酸で溶解させてミネラル分を抽出します。試験溶液は、乾式灰化法、塩酸抽出法、湿式灰化法、マイクロ波分解法などの方法で作成し、溶液に含まれる元素の濃度をそれぞれの機器に応じた方法を用いて元素の含有量を算出します。
試験溶液の作成方法 | フロー | 方法の概要 | メリット |
---|---|---|---|
乾式灰化法 | 試料採取-灰化-酸溶解(500度等)-酸溶解(加温)-ろ過-試験溶液 | 試料を電気炉に入れ灰化させ、有機物を除去した後、酸を用いてミネラル分を抽出する | 酸の種類や濃度の選択が でき、測定方法の選択範 囲が広い |
塩酸抽出法 | 試料採取-塩酸溶解(浸透)-ろ過-試験溶液 | 希塩酸を用いて、試料から元素を遊離・抽出する。油脂分が多いものは、抽出が不十分な場合があり、他の方法を選択する | 操作が簡便で汚染が少な い |
湿式灰化法 | 試料採取-硝酸・硫酸添加-加熱分解-試験溶液 | 硫酸、硝酸などの酸化剤を用い、加熱分解により試料中の有機物を除去後、溶液とする。乾式灰化法の適用が難しい試料(膨張しやすい試料、タンパク質を多く含む試料)に有効 | 低温で分解するため、元 素の揮散を防げる |
マイクロ波分解法 | 試料採取-硝酸添加-マイクロは分解-試験溶液 | 試料と硝酸を入れた密閉容器内にマイクロ波を照射し、熱効率良く、有機物の分解を行い、溶液とする | 密閉容器を用いるため、 汚染が少ない |
測定方法は、感度が測定機器によってが異なることから元素の含有量に合わせて選択されます。
ミネラル測定方法 | 概要 |
---|---|
原子吸光光度法 | 試験溶液を原子化して蒸気にすると、元素固有の波長の光を吸収する。この性質を利用し、元素固有の光の吸収量から元素の濃度を求める方法 |
ICP発光分析法 | 試験溶液をアルゴンプラズマ(7,000度以上)に霧化して導入すると、元素が励起されて元素固有の波長の光を発生する。この光の強さから元素の濃度を求める方法 |
ICP質量分析法 | 試験溶液をアルゴンプラズマ (7,000度以上)中に霧化して導入すると、元素が励起の一部がイオン化する。イオン化した元素の質量/電化数の比から元素濃度を求める方法 |
吸光光度法 | 紫外・可視領域の光が物質を通過するとき、光の吸収が起こる。光の吸収の強さ(吸光度)が物質の濃度に比例することを利用し、試料溶液中の元素濃度を求める方法 |
滴定法 | 試験溶液中の元素(成分)と定量的に反応する標準液の容量を量り、その容量から元素の濃度を求める方法 |
ミネラル別の溶液・測定方法一覧
種類 | 元素名 | 試験溶液方法 |
---|---|---|
カルシウム | 乾式灰化法 | ICP(誘導結合プラズマ) 発光分析法 原子吸光光度法 シュウ酸アンモニウム法 |
ミネラル | 乾式灰化法 湿式灰化法 | ICP発光分析法 バナドモリブデン酸吸光光度法 モリブデンブルー吸光光度法 |
リン | 乾式灰化法 | ICP発光分析法 原子吸光光度法 |
マグネシウム | 乾式灰化法 | ICP発光分析法 原子吸光光度法 |
ナトリウム | 乾式灰化法 塩酸抽出法 | ICP発光分析法 原子吸光光度法 |
カリウム | 乾式灰化法 塩酸抽出法 | ICP発光分析法 原子吸光光度法 |
塩素 | アルカリ添加 -乾式灰化法 水抽出法 | 電位差滴定法 イオンクロマトグラフ法 キャピラリー電気泳動法 |
鉄 | 乾式灰化法 | ICP発光分析法 原子吸光光度法 o-フェナントロリン吸光光度法 |
亜鉛 | 乾式灰化法 湿式灰化法 マイクロ波分解法 | ICP発光分析法 原子吸光光度法 ICP質量分析法 |
銅 | 乾式灰化法 湿式灰化法 マイクロ波分解法 | ICP発光分析法 原子吸光光度法 ICP質量分析法 |
マンガン | 乾式灰化法 湿式灰化法 マイクロ波分解法 | ICP発光分析法 原子吸光光度法 ICP質量分析法 |
ヨウ素 | 乾式灰化法 アルカリ溶解 | ガスクロマトグラフ法 ICP質量分析法 |
セレン | 湿式灰化法 マイクロ波分解法 | 蛍光光度法 水素化物還元-原子吸光光度法 ICP質量分析法 |
クロム | 乾式灰化法 湿式灰化法 マイクロ波分解法 | ICP発光分析法 原子吸光光度法 ジフェニルカルバジド吸光光度法 |
キャットフードのビタミン成分分析
ビタミン分析の概要
ビタミンの分析には、主に高速液体クロマトグラフ法と微生物定量法が用いられます。
脂溶性ビタミンの分析では高速液体クロマトグラフ法(HPLC)、水溶性ビタミンでは多くが微生物定量法(一部がHPLC)で測定されている傾向にあります。
高速液体クロマトグラフ法(HPLC)
高速液体クロマトグラフ(hige performance liquid chromatograph:HPLC)は装置の名前でもあり、フード中の目的成分の濃度を求めることができます。
HPLCで測定された情報データはデータ処理装置を経由し、クロマトグラムと呼ばれる山形の波形(ピークと呼ぶ)に変換されます。指標となる標準溶液・試料溶液のピーク面積や高さを比較して目的成分の濃度を求めます。
微生物定量法(マイクロバイオアッセイ)
微生物定量法(マイクロバイオアッセイ)は、目的のビタミンを必須栄養素とする特定の酵母や乳酸菌などの微生物を用いて行う測定方法で、微生物の増殖度合いを比較し求められます。
添加する微生物の増殖度合いの測定は、濁りの度合いを吸光度で比較し測定する比濁法や、生成する乳酸量を測定する酸度滴定法で行います。
キャットフードの水分分析
水分分析の概要
水分の分析は単純で、フードを135℃で2時間乾燥し減った量を求めます。加熱して蒸発すれば乾燥後は水分量分の重量が軽くなるので、減った分が水分に相当することが分かります。
代謝エネルギー(ME)
エネルギーの成分分析の概要
総エネルギーはフードを完全燃焼した時に得られるエネルギーです。総エネルギーはポンプカロリーメーターという専用装置によって求めることができますが、総エネルギーはそのフードがもつ最大エネルギーであり、糞や尿のエネルギーも含まれるので、ペットフードのエネルギーは消化率などを考慮し、アトウォーター係数を乗じた代謝エネルギー(ME)が使われます。
まとめ
- キャットフードの成分分析では燃焼、微生物、溶媒、機器など様々な方法を用いて抽出や測定が行われている
- 成分や分析方法によって誤差が生じる場合もある