猫の食の好みはいつ決まる?出生前・授乳期の経験がフード嗜好に与える影響

猫の食の好みはいつ決まる?出生前・授乳期の経験がフード嗜好に与える影響

「猫は好き嫌いが激しい」と言われることがあります。しかし、猫の食の好みは単なるわがままだけで説明できるのでしょうか。

「子猫の頃から同じフードばかり好む」「肉系のフードはよく食べるのに、魚系には興味を示さない」など、猫の食の好みに疑問を感じたことはありませんか?

本記事では、出生前から若齢成猫期までの食経験に注目し、猫のフード嗜好がどのように形成されるのかを、学術研究をもとに整理して解説します。

猫の食の好みは、生まれてから急に作られるわけではない

猫の食の好みには、生まれた後の食事だけでなく、初期の発達段階で受けた感覚刺激も関係している可能性があります。

猫の食物選好を研究した学術論文では、以下のように述べられています。

猫の長期的な化学感覚および食餌嗜好は、出生前および出生後早期(授乳期)の経験によって影響を受けることが示唆され、母猫から子猫への安全な食餌伝達のための、自然で生物学的に意義のあるメカニズムが裏付けられたと言える。

引用:Prenatal and Early Sucking Influences on Dietary Preference in Newborn, Weaning, and Young Adult Cats

この研究では、母猫に特定の香気成分を含む食事を与え、子猫がその刺激を胎内期、授乳期、あるいは両方で経験する条件を比較しています。

その後、新生期から若齢成猫期まで追跡した結果、子猫は過去に接触した刺激に対して選好を示しやすい傾向が確認されました。

さらに、胎内期と授乳期の両方で経験した場合に、より強い反応が見られたと報告されています

出生前の経験が食の好みに関わる理由

上記でも紹介した研究では、母猫の食事を通じた化学感覚刺激への経験が、その後の嗅覚・食物選好に影響しうることを検証したものです。

この研究では、出生前の経験だけでも、新生期、離乳期、6か月齢のすべてで選好に影響が見られたとされています。つまり、猫の食の好みは「離乳後に初めて形成される」と単純には考えにくく、母猫の妊娠中の食事環境も一つの要因になり得ます。

ただし、この研究で扱われたのは特定の香気成分への反応であり、「妊娠中に母猫が食べたすべての食材を子猫が将来必ず好む」とまでは言えません。

授乳期の経験も、成長後の嗜好に影響する

授乳期の経験も重要です。出生後の授乳期に経験した刺激も、その後の食物選好に影響したと報告されています。さらに、出生後の経験による影響は、猫が成長するにつれて強くなる傾向が示されています。

これは、母猫からの授乳を通じて、母猫から子猫への安全な食餌伝達のための、自然で生物学的に意味のある結果と考えられています。

猫は慣れた食事を好む一方で、新しい刺激にも反応する

新しいものを嫌がる行動「ネオフォビア」

上記では、猫の食の好みは、出生前や授乳期、離乳期の経験が影響する可能性があると解説しました。幼少期に繰り返し経験したにおいや味、食感は“食べ慣れた刺激”として受け入れやすくなり、新しい食べ物への警戒心にも関わると考えられています。

こうした食行動に関連して知られているのが、「ネオフォビア(新奇恐怖)」です。ネオフォビアとは、新しいものに対して警戒や回避を示す反応を指します。

猫は比較的この傾向が強い動物とされており、とくに幼少期の食経験が限られていた場合、新しいフードのにおいや味、食感に強い警戒を示すことがあります。

そのため、「ずっと同じフードしか食べてこなかった猫が、新しいフードをなかなか受け入れない」という行動も、不自然なものではありません。

新しい刺激に興味を示す「モノトニーエフェクト」

一方で、猫には同じ刺激が続くことで反応が弱まり、新しい風味やにおいに興味を示しやすくなる「モノトニーエフェクト(単調化効果)」もみられます

これは、「同じものしか食べないと思ったら急に飽きたように見える」「新しいフードを出したら興味を示した」という、これまでの解説と矛盾しているともいえる行動です。

つまり、猫は単純に「変化を嫌う動物」というわけではありません。

出生前や授乳期、離乳期の経験によって「なじみ」を好む傾向がある一方で、現在の環境、食事の変化、におい、食感、栄養状態、個体差など、さまざまな要因によって新しい刺激への反応も変化します。

そのため、飼い主から見るとと「わがまま」や「気まぐれ」と感じることもあるかもしれませんが、猫の食行動は、非常に複雑な特徴を持っていると考えられています。

子猫期の食経験から考えるフード選びの注意点

子猫期には、栄養バランスを満たした食事を基本にしながら、将来的な食の受け入れやすさも意識することが重要です。

ただし、研究結果をもとに子猫のうちに多くの食材を与えればよい」と単純化するのは適切ではありません

猫、とくに成長期の子猫では、必要な栄養を満たすことが最優先です。食経験を広げる場合でも、主食は成長期に適した総合栄養食を基本とし、急な切り替えや過度なトッピング、栄養バランスを崩す与え方は避ける必要があります。

また、食物アレルギーが疑われる猫や、消化器症状がある猫では、むやみに食材を増やすことが診断や管理を難しくする場合があります。このようなケースでは、自己判断ではなく獣医師に相談することが前提です。

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まとめ

猫の食の好みは、生まれた後に偶然決まるものではなく、出生前、授乳期、離乳期の経験が関わる可能性があります。

ただし、これは「母猫が食べたものを子猫が必ず好きになる」という意味ではありません。猫の食行動は、初期経験だけでなく、におい、食感、栄養状態、環境、体調など、さまざまな要因が複雑に関わっています。

とはいえ、「特定のものしか食べない」「好き嫌いが強い」「これまで食べていたフードの販売終了で困った」といった食事の悩みを減らすためにも、母猫の食生活や、授乳期・離乳期の食経験に注目してみることは意味があるかもしれません。

猫のフード選びでは、「飽きた」「好き嫌いが多い」と決めつけるのではなく、その猫がどのような食経験をしてきたのか、どのような刺激に慣れているのかを考える視点が大切です。

参考:Prenatal and Early Sucking Influences on Dietary Preference in Newborn, Weaning, and Young Adult Cats
参考:The Development of Food Preferences in Cats: The New Direction