猫の病気:ヘルニア
臓器が飛び出している状態
ヘルニアとは、体内の裂孔や間隙から、腸などの臓器が本来の位置から飛び出してしまっている(脱出・突出)状態です。目に見える形で外に飛び出ている外ヘルニアと、体の中で飛び出ている内ヘルニアがあります。
人の場合は、背骨全体がつぶれることによって背骨と背骨の間にある椎間板が飛び出て腰に痛みが出る椎間板ヘルニアがよく聞かれますが、猫の場合、椎間板ヘルニアを発症することは稀で、腹腔や腹膜に関連するヘルニアが多く見られます。
猫に多いヘルニアの種類
腹腔や腹膜に関連するヘルニアには、横隔膜ヘルニア、食道裂孔ヘルニア、臍ヘルニア、鼠径ヘルニア、腹壁ヘルニア、会陰ヘルニアなどがあります。
- 横隔膜ヘルニア
- 食道裂孔ヘルニア
- 臍ヘルニア
- 鼠径ヘルニア
- 腹壁ヘルニア
- 会陰ヘルニア
会陰ヘルニアはしっぽの近くで肛門の周辺部分にできるヘルニアです。いわゆるデベソ(出臍)部分から臓器の一部が突出してしまう臍ヘルニアは幼少期の猫に多い症例です。鼠径ヘルニアは脱腸と言われます。
猫のヘルニアの原因
ヘルニアは裂孔や間隙の形成によって起こりますが、ヘルニア孔の原因は先天性・後天性、両方の可能性があります。
- 外傷
- 先天性異常
- 持続的・断続的な腹圧
- 肥満(椎間板)
横隔膜ヘルニアや腹壁ヘルニアは外傷が原因であることが多く、臍ヘルニアは先天性異常によっておへその部分の腹膜が閉鎖できていない時に起こります。
鼠径ヘルニアや会陰ヘルニアは先天性の原因であることもありますが、多くは強い腹圧が連続で加わることによって、元々存在する生理的な裂孔や間隙が広がって起こると考えられています。
食道裂孔ヘルニアも先天性である場合もあれば、後天的に横隔膜の食道裂孔が緩んで起こる場合もあります。
椎間板ヘルニアは猫の場合、肥満などで日常的に体重で骨に負担がかかることが原因で椎間板が飛び出してしまいます。
猫のヘルニアの症状
- 呼吸困難や息切れ(横隔膜)
- 腹部の膨らみ(腹壁・臍・鼠径・会陰)
- 吐き気、下痢
- ショック症状・壊死(循環障害)
- 排尿障害(鼠径・会陰)
- 歩き方の変化(椎間板)
横隔膜ヘルニアの場合、呼吸に影響が出てきます。苦しそうにしていたり、息切れや上手く呼吸ができていないような様子が見られ、呼吸困難に陥る事もあります。
腹壁・臍・鼠径・会陰ヘルニアではヘルニアの部分に膨らみが確認できます。前述のヘルニアでは消化管が締め付けや捻れによって腸閉塞を併発したり、嵌頓ヘルニアと呼ばれる循環障害を併発する場合があります。循環障害では血液が循環しないことで酸素が届けられず、一部の臓器が壊死したり、ショック状態を引き起こすことがあります。
鼠径や会陰ヘルニアでは膀胱が飛び出し、排尿障害が起こります。
猫のヘルニアの診断・治療
検査・診断方法
- X線検査
- 超音波検査
ヘルニアは、猫の症状や腹部の膨らみなどを観察し、X線検査や超音波検査の結果に基づいて診断します。食道裂孔ヘルニアの診断には、食道と胃の造影X線検査が必要な場合があります。
治療方法
- 外科手術
- 抗炎症剤
椎間板ヘルニアで軽度の場合、痛みや炎症を抑えるための抗炎症剤や非ステロイド系の薬を使用して治療を行うこともあります。
重症のヘルニアでは飛び出た臓器を元の位置に戻す必要があるので、外科手術が必要になります。外科手術の場合は検査費用や手術費用、入院費やその後の通院費もかかるので、ペット保険等に加入していない場合、安くても10万円以上、病院や手術する場所によっては数十万円ほどかかると見積もっておきましょう。
猫のヘルニアの予防方法
ヘルニアの原因は先天性と後天性があるので、先天性によるヘルニアは予防のしようがありません。なるべく早期発見で症状や状態が悪化しないうちに治療や手術を行うようにしましょう。
後天性のものは、腹圧をかけないようにしたり、生活環境や屋内飼育、体重管理(肥満予防)に配慮することで予防できます。後天性の原因では外傷によるものが多いので、ケガをしないように安全な環境作りに配慮します。
- 猫が歩く場所に滑り止めやマットを設置
- ドアストッパーの設置(ドアに挟まる危険)
- ゴミや小物類はすぐに片付ける、収納する
- ベランダ転落防止フェンスやネットの設置
- 完全室内飼育
屋内飼育で事故を防ぐことはもちろん、屋内でも猫のケガの原因となる場所は多くあるので、猫の行動範囲でケガをしそうな部分があれば、上記のようなケガ防止グッズを使って対策しましょう。
椎間板ヘルニアの予防は体重管理、肥満の解消です。
まとめ
- 猫は椎間板ヘルニアより腹部や鼠径ヘルニアが多い
- 呼吸困難や腹部の膨らみ、排尿障害や循環障害がおこる
- 治療は抗炎症剤もしくは外科手術
- 手術の場合は数十万円ほどかかると見積もっていた方がいい