

ある程度年齢を重ねた猫の尿のにおいが薄まった場合、もしかしたら「腎臓病」の可能性があります。
今回は猫の尿の仕組みやその成分、飼い主さんができる早期発見の方法について解説します。
猫の腎臓病について

参考:意外と知らない猫統計|アニコム をもとに作成
上表は、猫の腎臓病の罹患率の年齢推移です。
6歳以上になると罹患率が急激に上昇し、12歳以上の約30%が慢性腎臓病になるといわれています。発症の原因は加齢やウイルス感染、ケガ、中毒などさまざまなものが挙げられますが、初期症状があらわれにくく、検査して発見されたときには症状が進行していたというケースが多くあります。
腎臓病は完治しない病気なので、早期発見による早期治療、症状の進行を遅らせることが治療の目的となります。
とくにトイレは毎日行うものなので、日常のトイレ掃除を通じて猫の尿の変化に気付くことで腎臓病の早期発見につながります。
猫の尿のにおいの原因は?
猫特有のたんぱく質「コーキシン」
通常、健康な尿の中にはタンパク質はほとんど排泄されず、尿に大量のタンパク質が排泄されることは腎臓の異常を示していることになりますが、猫は他の哺乳類と異なり、健康な腎臓機能であっても尿の中に大量のたんぱく質が存在するという珍しい生理現象を持っています。
その中でも「コーキシン」と呼ばれる猫特有のたんぱく質が腎臓の尿細管で合成された後、尿中に分泌されます。このコーキシンが、同じくネコ科の動物にだけ特異的に存在するアミノ酸の一種「フェリニン」の生産を触媒することによって、猫特有の尿の臭いが発生しています。
臭いの原因は揮発性硫黄化合物
猫の尿に含まれるにおい成分の揮発性の分析結果では、猫の尿から約100種類もの揮発性物質が検出されています。
その揮発性物質のうち、猫の尿に特有のにおいを発生させる主要成分が、フェリニンが分解されて生じる「3-メチル-3-メチルチオ-1-ブタノール」や「3-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール」です。
腎臓病になると尿のにおいが薄くなる
研究内容
国立大学法人岩手大学が行った研究によると、腎臓病が進行した猫では、猫の尿のにおいの原因であるフェリニンの尿中排泄量が減少し、尿のにおいが減少したことが分かりました。
健康な猫34匹と腎臓病を患った猫66匹を対象とした研究において、尿中のフェリニンと、その前駆体である「3-メチルブタノールグルタチオン(MBG)」の濃度、またフェリニンから生成される揮発性物質「3-メチル-3-メチルチオ-1-ブタノール」や「3-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール」などの尿中揮発量を分析し、腎臓病の進行に伴う物質の変化の関連性を研究しました。
研究結果
研究の結果、
- 腎臓病が進行に伴いフェリニン濃度が減少
- 重度の腎臓病ではフェリニンがほとんど検出されない
- 腎臓病の進行に伴い揮発性物質が大幅に減少する
が分かりました。
このように、腎臓病を患っている猫の尿はにおい成分であるフェリニンや揮発性物質が大幅に減少する、すなわち、尿のにおいが薄くなるということです。
参考:ネコの尿のにおいが薄くなったら要注意!腎臓病の発見につながる新知見|農学部 応用生物化学科 教授 宮崎雅雄 分子生体機能学
飼い主ができる腎臓病の早期発見
猫の腎臓病の初期症状は、尿のにおいが薄くなる、多飲多尿、水を大量に飲むなどの行動の変化があらわれます。
毎日の猫のトイレ掃除を通じて、猫の尿のにおいや色、量、頻度などを観察しましょう。猫は6歳ごろから腎臓病の罹患率が急激に上昇するため、6歳ごろからの尿の観察はとくに重要となります。
尿のにおいが減少したり感じにくくなった場合は、腎臓病の可能性を疑うことで腎臓病の早期発見につながったり、病気の進行を遅らせることができます。
まとめ
- 猫は6歳から急激に腎臓病の罹患率が上昇する
- 猫の尿の原因は揮発性物質の3-メチル-3-メチルチオ-1-ブタノールなど
- 腎臓病になると尿のにおいが薄くなる、または感じなくなる
- とくに6歳ごろは尿の変化に気付けるよう観察する