キャットフードの保存料:安息香酸ナトリウム(安息香酸Na)
合成保存料(防腐剤)
安息香酸(benzoic acid)や安息香酸ナトリウム(sodium benzoate)は、1832年にドイツの化学者であるユストゥス・フォン・リービッヒとフリードリヒ・ヴェーラーによって構造が決定された防腐剤や保存料です。「あんそくこうさん(ナトリウム)」と読みます。
安息香酸ナトリウムは、安息香酸を水酸化ナトリウムで中和反応させたものですが、安息香酸は溶解度が小さく直接使用することが難しいため、基本的には安息香酸ナトリウムが保存料として広く使われています。
清涼飲料水やジャム、シロップなど食品に利用
炭酸飲料などの清涼飲料水を始め、シロップやジャム、ジュース、漬け物、マーガリンや醤油、ドレッシングなどの調味料、また化粧品や医薬品、ペットフード、また犬猫用歯磨き粉などにも使用されています。
香料としても用いられる樹脂の一種で、エゴノキ科アンソクコウノキの樹脂、野菜やベリー系の果物にも含まれています。現在食品添加物として利用されるのは化学合成由来がほとんどで、日本の食品添加物のリストにも指定添加物として登録されています。
キャットフードへの使用基準や制限は特になし
ペットフード安全法によって添加物の使用や上限値が定められている成分もありますが、安息香酸・安息香酸ナトリウムは特に使用制限や基準は定められていません。
ちなみにキャットフードの成分基準がある「亜硝酸ナトリウム」と間違われやすいですが、これは発色剤なので別の物質です。
安息香酸・安息香酸ナトリウムの防腐・抗菌効果
強い酸性の食品で高い防腐効果を発揮する
安息酸ナトリウムは、殺菌作用(確実に滅菌)はありませんが、抗菌作用があり、酸性の強い(pH値が低い)食品ほど高い防腐効果が期待できます。このため食品の中でも酸系食品に最もよく配合されています。
キャットフードの場合、商品によってpH値はそれぞれ異なりますが、pH値を公開しているキャットフードをいくつか見てみると、療法食や犬猫用歯磨き粉については分かりませんが、おおよそ弱酸性(5.5~6.5)の値を示しているため通常のキャットフードであれば、安息酸ナトリウムも効果は高いと考えられます。
安息香酸・安息香酸ナトリウムの危険性、毒性
発癌性のあるベンゼンを生成する可能性
安息香酸ナトリウムは、アスコルビン酸と配合された場合、ベンゼンを生成する可能性があることが分かっています。ベンゼンには発癌性があり、他にも造血器系の障害や中毒症状が出る危険もあります。
引用元:国立医薬品食品衛生研究所 ソフトドリンク中のベンゼンについて(「食品安全情報」から抜粋・編集)
各種濃度の安息香酸とアスコルビン酸を含むソフトドリンク及びフルーツジュースの調査で微量のベンゼンが生成する可能性が示されている。また実験室ではある一定条件下で安息香酸からベンゼンが生成することが示されている。生成には両物質の濃度の他に飲料のpH、他の成分、保存温度、紫外線などさまざまな因子が関係する。しかし、現時点でのデータからは食品中で実際にベンゼンがどの程度生成するかは判断できない。—中略—
BfRはアスコルビン酸と安息香酸を含むソフトドリンクやその他の食品中のベンゼン含量についてデータを収集するよう勧告している
2006年に米国食品医薬品局がアスコルビン酸と安息香酸炎の両方を含む100種類の飲料を調査したところ、そのうち4つに環境保護庁によって設定された最大汚染物質レベルを上回る濃度でベンゼンが含まれていたことが分かりました。
アスコルビン酸とは「ビタミンC」のことで、猫にとって必須栄養素ではありませんが、キャットフードでも添加されていたり、少量でも含まれる可能性の高い栄養素です。熱、光、保存期間によってベンゼンの生成量に影響を及ぼすことも知られています。
キャットフードの場合、飲料水のように液体ではなく固形に製造保存されますが、他の食品やペットフードに当てはまらないとは限りませんので、安全とは言い切れません。
神経系や視覚喪失などの中毒症状、腸管粘膜や肝臓への障害
日本医薬品添加剤協会が好評しているデータには、2.39%の安息香酸を含む餌を摂取した28匹の猫に、以下のような中毒症状が現れ、17匹の猫が死亡もしくは屠殺されました。また、解剖すると猫の腸管粘膜と肝臓に障害が認められました。
- 神経過敏
- 興奮
- 平衡および視覚喪失
- 痙攣
猫の感受性はグルクロナイド生成不全のためで、毒性は単回投与では0.45g/kg、反復投与では0.2g/kgを超える用量で発現するとされています。
イギリスでは安息香酸ナトリウムをソルビン酸カリウムに代用
イギリスでは、飲料水に使用される保存料の大部分が安息香酸ナトリウムから、同じく酸性防腐剤の「ソルビン酸カリウム」に置き換えられています。ソルビン酸カリウムは発癌性や中毒性の報告がなく、合成保存料の中でも比較的安全性が高いと考えられています。
キャットフードでも使用されることがあるので、下記の記事で詳しく解説しています。
まとめ
- 清涼飲料水等に使用される防腐剤、保存料
- 強い酸性食品で効果や作用が高い
- 発癌性物質のベンゼンの発生原因
- 猫に中毒症状や腸、肝臓への障害が見られた
- イギリスではソルビン酸カリウムへ代用
- キャットフードでは使用制限や上限値の設定はない