猫はアルギニンが欠かせない!血管拡張作用や創傷治癒の促進、がんの成長と転移の抑制など

猫はアルギニンが欠かせない!血管拡張作用や創傷治癒の促進、がんの成長と転移の抑制など

猫はアルギニン(arginine)が欠かせない

猫は生きていくうえで、必須アミノ酸であるアルギニンが欠かせません。アルギニンは血管拡張の作用や創傷治癒の促進、がんの成長と転移の抑制などさまざまな効果があります。アルギニンが不足すると命に関わることも。

この記事ではアルギニンの重要性や仕組み、アルギニンをとくに必要とする猫についてご紹介します。

アルギニンがとくに必要なのはどんな子?

ペットフードの栄養基準やラベル表示に関する基準を定めているアメリカの団体AAFCO(米国飼料検査官協会)に則って、アルギニンを入れる最低基準が定められています。幼猫は1.24%以上、成猫は1.04%以上のアルギニンが必要となります。

ドッグフードに含まれるアルギニンの最低基準は、幼犬は1.0%以上、成犬0.51%以上となっています。猫は犬よりもアルギニンを必要とし、成猫に関しては2倍以上も異なります。

参考:AAFCO「栄養基準(2016)に基づく成分分析一覧(ドライフード)」猫

参考:AAFCO「栄養基準(2016)に基づく成分分析一覧」犬

きちんとキャットフードを食べていればアルギニンが不足することはありませんが、下記のような猫はアルギニンが不足している可能性があります。

  • キャットフードへの食いつきが悪い子
  • おやつばかりを食べていて、食生活に偏りがある子
  • 継続的に手作りごはんを食べている子
  • 体調不良などで下痢や嘔吐を繰り返している子
  • 内臓機能の低下により、十分に消化・吸収できないシニア猫
  • 細胞分裂や増殖が活発な成長期の子猫
  • 胎児の成長のために細胞分裂や増殖が活発な妊娠・授乳中の猫

アルギニンとは

必須アミノ酸の一つ

猫はアルギニンが欠かせない!血管拡張作用や創傷治癒の促進、がんの成長と転移の抑制など

もともと肉食動物の猫にとって、生きるうえで重要となるのがたんぱく質です。そのたんぱく質を構成しているのがアミノ酸ですが、体内で合成できないアミノ酸(必須アミノ酸)は食べ物から摂取しなければなりません。その必須アミノ酸の一つに、アルギニンがあります。

 

猫の必須アミノ酸は11種類あり、その中でもとくに重要とされるのがアルギニンとタウリンです。アルギニンを生成するのに必要となるのがオルニチンとシトルリンですが、猫はそれらを体内で合成することができません。

そのため、食べ物からアルギニンを摂取しなければなりません。

アルギニンの栄養効果

アンモニアを尿素に変換する

体内で発生した有害なアンモニアを無害な尿素に変換します。これを尿素回路といいます。アルギニンは尿素回路の中間体として働きます。

アンモニアはたんぱく質が分解されることで発生するため、たんぱく質が多い食べ物を食べるほどアルギニンの要求量・消費量が多くなります。

血管拡張作用

アルギニンは、シトルリンに転換されるときに一酸化炭素(NO)が発生します。一酸化炭素は血管内で日々生成されている物質で、血管を拡張する作用により血管がしなやかになったり、血流が良くなります。それにより、スムーズに体のすみずみに酸素や栄養が運ばれます。

また、血管壁にコレステロールが付着して血管が狭くなるのを改善するため、動脈硬化をゆるやかにする効果があります。

筋肉増強や免疫力向上

アルギニンは筋肉増強や免疫力向上が期待できます。

アルギニンから一酸化炭素が発生する作用により、マクロファージを活性化させます。マクロファージとは白血球の一種で、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を消化・殺菌して体を守る免疫細胞です。

成長ホルモン分泌の促進

成長ホルモンが細胞増殖とコラーゲン合成を促進することで、ケガや炎症などを修復するときにできる新生組織を増やしたり、上皮化の促進に効果があります。

がんの成長と転移の抑制

ネズミやリスなどのげっ歯類では、アルギニンを非経口投与(口から食べ物を摂取せずに栄養を得ること)をすると腫瘍細胞の成長や転移を抑制することが報告されています。

参考:がんを伴うイヌとネコの栄養管理法

創傷治癒の促進や褥瘡の低減

上記の4つの作用によって、創傷治癒の促進や褥瘡(じょくそう)の低減が期待できます。

  • 創傷治癒:細胞が傷ついたときに、軽症のものは自然に肌が治癒していくこと
  • 褥瘡:寝たきりなどで、体重が圧迫されている部分の血流が悪くなること

猫は体重が軽いので褥瘡は起こりにくいですが、肥満傾向の猫や寝る時間が増えるシニア猫は注意が必要となります。

アルギニンが豊富な食べ物

アルギニンは大豆やごま、鶏卵、魚類、肉類などに豊富に含まれています。アルギニンはニンニクや加工品にも豊富に含まれていますが、猫にとって中毒となる食べ物なので与えてはいけません。

下表は、アルギニンが豊富に含まれている食べ物です。

アルギニンを含む食品アルギニン量(mg/100g)
黄大豆2900
ごま2900
スケトウダラ2600
若鶏 もも ゆで2600
牛 もも ゆで2100
豚 もも ゆで2000
ひよこまめ1900
ほたてがい 貝柱 焼き1900
しろさけ1700
豚 ロース ゆで1700
あゆ 天然 焼き1600
さわら 焼き1500
枝豆 ゆで830

※出典:日本食品標準成分表(八訂)増補2023年

生卵や魚類、肉類などは生で食べると病原菌による中毒症状を引き起こす恐れがあります。手作りごはんに取り入れるときは必ず加熱調理しましょう。

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アルギニンが不足すると

体内でアルギニンが不足すると、尿素回路が正常に働かなくなります。そのため、本来は体外に排出されるはずのアンモニアが体内に留まり、高アンモニア血症を引き起こす可能性があります。

高アンモニア血症は尿毒症ともいわれ、よだれが大量に出たり、ぶるぶる震えたり、最悪の場合は肝性脳症になる恐れがあります。

総合栄養食であるキャットフードを食べていれば問題ありません。しかし猫はアルギニンを全く含まないフードを給餌した場合、1時間以内に高アンモニア血症を生じるとされています。犬よりも猫の方が重症になりやすく、2~5時間で死に至ることもあります。

参考:マーク・モーリス研究所「イヌ・ネコのライフステージと栄養」

まとめ

  • アルギニンは食べ物から摂取しなければならない必須アミノ酸
  • キャットフードには幼猫1.24%、成猫1.04%以上のアルギニンが含まれている
  • 体内のアルギニンが不足すると、抗アンモニア血症になる恐れがある

ABOUTこの記事をかいた人

古川菜々

愛玩動物飼養管理士2級、ペットセラピスト、ペット看護士、愛犬飼育スペシャリスト、キャットフード勉強会ディレクターとして、キャットフードに関する情報を提供しています。帝京科学大学アニマルサイエンス学科卒業。文章を通して猫ちゃんの魅力を発信できること、多くの飼い主さんの悩みや不安を解決できることに魅力を感じ、動物ライターに。飼い主さんと猫ちゃんの幸せのお手伝いになれれば嬉しいです。